ガランッ!!!
店の扉が乱暴に開け放たれてベルが叩きつけられるように鳴った。
転がるように飛び出していったお客の背を二階の窓から見送る。
「クロハ様」
振り向けば今は従業員として働いている子がキラキラと期待に満ちた目で佇んでいた。
ハローハロー。
現在政府の管理する万屋街に紛れ込んでお店を経営しているクロハさんですよ。
なんでこんなことになったかと言えばふらっと本丸に紛れ込んだとある妖怪が「なんじゃここの住み心地の良さは!?」とびっくら仰天して驚かしてやろうグフフという目的もスポーンと忘れて現世にとんぼ返り。
その話が人間に森やら山やら開拓されて居場所が無くなっていた妖怪たちの耳に入り、
そんな子たちを保護して面倒見ていた私の耳にも入った。
私も一応大妖怪。
強い者として庇護を求める子を無視するわけにもいかんので面倒を見たりもしている。
大妖怪ってのはつまり長生きで強い力を持った妖怪のことらしいんだけど、長生きはともかく私そんな強い…?ハッてやって花瓶パリン!とかいまだに出来ないんだけど。
まあ一度も退治されたことがないのは事実なので置いておく。
とにかく、そんなわけで。
そんなに住み心地がいいんなら保護してる子達にいいんでねーの?となって気軽に潜入してみた。
ちょうどなんか問題解決のために万屋街が設立されると聞いたのでそこに紛れ込んだわけだ。
最初、様子見で政府の管理する万屋で試しに働いていたら刀剣男士にも負けない容姿が仇となってまあ目立つ目立つ。
変えられない目の色はカラコンで隠してたのにその努力すら無になったよね!!
付き纏ってきた人間はバレないように軽い術でもかけちゃえばいいんだけど刀剣男士は妙に手強くて。
どこぞの天下五剣だとかいうのについ一撃喰らわせたら騒ぎになっちゃって、こりゃやべぇと亡命したら
【最初期 万屋街の玉藻前】とか噂されて黒歴史になった。
玉藻前って……やめてご本人に怒られちゃう会ったことないけど。
そんなことがあって今は顔を隠した上で万屋街の一角に店を構えている。
従業員は翼下の妖たち。
適材適所でやれる店を模索してたらなんの店か良くわからなくなったけど、まあみんなまとめてよろず屋でいいよね!ってなった。
雑?なんとでも言え。
そんな当店だが、何も人間に混じって生活することが目的ではない。
妖怪の本分は忘れてないのだ。
万屋街に出没する妖怪や怪異。
何を隠そうその一部はうちの従業員たちである。
通りすがりを無差別にヒットエンドランするのが多いけど、良さげなターゲットとしてお客を選ぶこともある。
護衛刀剣のいない客の帰り道とか狙い目。
ただし政府に怪異対策課とやらもあるらしいのでやり過ぎは注意。
その辺の調整は私が指示しているのでうちの子から退治された子はいない。
いや、そもそも私がさせないけどね。
いざとなれば一戦交える所存である。
え?フラグ?そんなバカな
テーブルの上にはばらばらに撒かれたカード。
「これどんな結果なんですか?」
「良くないものと分かっていても、欲望のままに手を出してしまう。
どうも厄介なモノと契約したようよ。出会いは縁だというのに、人の子は学習しないんだから」
「なら我らの出番はないんでしょうか」
「そうねー」
他者の獲物を横取りするのは、まだこの子たちには早いだろうなぁ。
なにより、"約束"は守らないと、ね。
前払いでした契約に、何を支払うのか考えなかったあの審神者の落ち度だ。
助けはしないさ。
一枚だけきっちりと表を向いているカードを手に取った。
【THE MOON】
出会いは縁だよ。審神者諸君?
さて、
うちはちょっとご遠慮願いたい客、主に神刀は弾くように小細工はしてあっても基本的に誰でもウェルカムだ。
あの客は無理でもまた獲物は来るだろう。
「そろそろ閉店準備しなさい。夜はまだまだ長い、私たちの時間が来ますよ!」
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_______怪異対策部 報告書
相模国 本丸No.イ35807B45 審神者名 落椿
本丸内にて刀剣 全25振の破壊を確認