転送ゲートをくぐって噴水のある広場を東に抜け、
「次郎太刀御用達!」の宣伝のぼりが目立つ酒屋の角を曲がって2軒ほど先にある八百屋の隣、細い路地裏を真っ直ぐに歩く。
背の高い建物が多いから、暗い足元に気をつけて。
突然開ける視界の先に三階建てで赤いレンガ造りの店がある。看板は何もないからすぐに店だとは分からないかも。
桜のデザインされたステンドグラスが綺麗だから、それを目印にするといい。
扉を開けるとカランカランッとベルが鳴ってすぐに黒いエプロンをした男の店員が歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ。よろず占い処クロハ屋へようこそ」
「えっと、はじめてなんですけど」
「どなたかのご紹介ですか?」
「はい、同じ審神者の友人で。あっこれ紹介カードです」
あらかじめここを紹介してくれた友人に渡されていたカードを渡す。表に店名、裏に友人の審神者名と関係性が書かれたとてもシンプルなものだ。紹介カードというより、ショップカードを勝手に紹介カードに仕立てたものなので正式なものではないけど。
受け取った男は裏を軽く確かめると「少々お待ちください」と声をかけてカウンターで他の客と話し込んでいた女性に声をかけた。
ここからでは何を話しているのか聞こえない。
手持ち無沙汰で店の中を見回してみる。
入って左側にはカウンターテーブルと3人がけの大きさの丸テーブルが4つ。
一つの丸テーブルには30代くらいの女性と前田藤四郎が静かに紅茶とケーキを楽しんでいる。
右のエリアには他の万屋でも売っているような日用品にお守りや富士札といった便利道具。
に、混じってよく分からないお札や雑貨が売られている。
なんだアレ。
よろず占い処……と言っていたけれどよろずを占う処、というより"カフェ+万屋+占い処"という感じか。
奥の方には二階に続く階段もあるけれど、全体的に小規模で静かな空間だ。
けれど一つ一つのスペースが広めに取られているし、日が差し込むステンドグラスの光が板張りの床に落ちて暖かい印象を抱く。
流れている音楽も、聞いたことはないがゆったりとした曲調で少し緊張していた心が安らいでいくのを感じた。
「お待たせしました。店主のクロハです。本日は占いを御所望ですか?」
ハッとして視線を戻すと目の前に布で顔を隠した女性が立っていた。緩やかに弧を描く口元しか見えないが、間違いなく美人だろう。
店内にいる他の店員も先程の店員も刀剣男士に比べたら平凡に見えてしまうが、どことなく整った顔立ちをしていた。
「はい、実は……!」
ここに来た目的を思い出して気がはやってしまったのを女性は手で制して「こちらへどうぞ」と先導した。
亜麻色の髪が柔らかく揺れる。
促されるままに階段を上っていくと、ついた二階は勝手に想像していたのとは違って日当たり良く、おどろおどろしい感じのないちょっとした書庫のような部屋だった。
水晶、トランプ、タロット、筮竹、etc
名前のわかる占い道具はそれくらいだけど、きちんと整理して置かれていてインテリアのように感じる。
中央に位置する丸テーブルに案内されて腰掛ける。
「まずはいくつか質問しますね」
「はい」
「信用できない占い方法はありますか?」
「え?」
「たまにいるんですよ。タロット占いは信じないから筮竹占いにして欲しいとか」
「それは…なんというか。いえ、私はありません」
その客はそもそも占いを信じてるんだろうか。
否、自分も審神者になる前まで信じようともしていなかったけれど。
でも、友人曰くここの占いは当たる。
もう今の自分には何かにすがる事しか出来ないのだ。
「では二つ目。貴方の護衛は誰で、どうしていますか?」
ドキリと心臓が跳ねた。後ろめたかったからだ。
万屋街だろうと、審神者は護衛として刀剣男士を一振りは連れ歩く事を義務付けされている。
万屋街に入ったところまでは確かに一緒にいた。でもここに連れてくることはしたくなかった。
自分の刀剣男士に頼らず、こんな、占いなんてものに頼るのは彼らへ不誠実だと思ったから。
知られたくなかった。だからなんとか撒いてきてしまったのだ。
心配をかけていることは分かってる。
それでも、相談内容も含めて、知られたくない。
「護衛は山姥切国広で、途中で逸れてしまったので噴水広場で待ち合わせることにしています」
「山姥切国広…」
「あの、彼が何か」
「いえ、それでは占いを始めましょう」
店主はそういうと窓際の棚からカードを取り出した。