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「料理の腕がずいぶん上達したな。」
彼が食事中に徐に話しかけた。目の前には先程出来あがったスープと温めたパン、そしてサラダが置かれている。
ユリウスから褒められたのは初めの頃のなけなしの出来そこない料理以来だ。パロマは思わず手に持ったパンを落としてしまった。
「本当ですか?!―――うれしいっ。ホントに嬉しいです。」
もっと食べて下さい〜とユリウスのお皿にスープのおかわりを注ぐ。そこからまた食べる事を忘れてしまったのか、テーブルに両肘を突いて両手で顔を支えて彼の姿を嬉しそうに眺めている。ユリウスは勝手に増やされたスープ皿に目をやってから、もう一度パロマを眺めた。
彼女はどうやら褒められるのに弱いらしい・・・。
この前も廊下が綺麗になって見違えたとちょっと褒めてやったら、その後パロマは鏡にでもするつもりかという程窓に磨きを掛けていた。
「かなり薄味だが、生煮えでもなければ焦げ臭くもない。普通に食べられるぞ?」
「きゃあ!そんな大げさなっ!!でも、頑張った甲斐がありました〜。」
巷のおばさんの様に手首のスナップを利かせて上下に振りまくり、やたらと照れるパロマ。
(どっちが大げさだ。)
そんなに褒めたつもりもないユリウスは、彼女の仕草に失笑させられる。
褒められた事がないと言っていたのは本当の事だったのか。ユリウスが日常会話的にほんの少しの感謝の意を示すだけでも、彼女は過敏に反応した。
過酷な労働条件・・・こんな少女にそんな大層な事を押し付ける場所とは一体。そう言えばパロマを森で発見する少し前、森を騒がす顔なし達が大勢いた。彼女が本当に逃れたかったのはボリスからではないのではないか・・・。
「ユリウスさん、仕事が大事なのも分かりますが、余り根を詰めるのは良くありませんよ。」
物思いにふけっていたユリウスは、彼女の言葉で我に返った。
「ずっと仕事部屋に籠っていては身体に毒です。たまには外にでないと。・・・あっそうだ!実は食材が後少しになってしまったので、一緒に買い出しに行きませんか?」
「―――食材はたまに届けに来る者がいるから大丈夫だ。お前はまだ走れないからボリス=エレイにでも見つかったら事だぞ。」
それを聞いてボリスに殺されそうになっていた事を思い出したのか、パロマはあからさまに震え上がった。
「た、確かにそうですね。・・・でも!貴方はもう少し外との繋がりが必要です。この塔だって、使用人を付ければもっと快適に過ごすことが出来るのに。」
パロマが散らかった作業台に視線を流す。要は彼の事を心配しているらしい。
大きな目をクリクリさせて説教している彼女は本当に愛らしい。これ程の美貌だと世の男共が放ってはおかないだろう。どこかで囲われてでもいたのだろうか、とユリウスが推測する。
しかし、そうすると着ている服があまりに質素だし、媚を売る様な態度も感じない。
「使用人じゃなくても、う〜ん、好きな人とか。お世話をしてくれる女性がいたら良いんじゃないでしょうか?―――はっ!実はいちゃったりして?!どうしようっ私、実はすっごいお邪魔だったりしちゃったりしてっ」
ユリウスが何を考えているかなんて一切知らずに、1人で悩んで、1人で頬を染めている。何だか可笑しな娘だ。
「そんな異性はいない。そもそも他人は信用しない事にしている。」
「えぇ〜・・・。せっかくのカッコいい容姿が台無しですね。引き籠りなのが何より残念です。」
「お前はその失礼な口をどうにかしろ。お前だってその容貌では相当ちやほやされただろう?―――いや、この世界ではなく、お前が住んでいた世界での話だ。その位なら話せるんだろう?」
「ここに来る以前の私・・・ですか?」
そんな事初めて聞かれたのか、パロマは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をした。


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