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パロマが時計塔に匿ってもらってからしばらくが経ち、
塔の厨房では彼女が一人、火に掛けられた鍋を瞬きもしないでギンギンと血走った眼で睨んでいた。
鍋の中には細かく刻んだ野菜達かコトコトと煮込まれている。あれから色んな物にチャレンジしているパロマだが、味が旨く整わないのが難点だった。
初めてのスープは「茹ですぎて原型のない味もそっけもない野菜」とユリウスにこっ酷く言われた。
次に作ったポトフは「岩塩の塊が浮いているのかと思った。・・・これは保存食か?」と苦い顔で言われた。
パンしか食べてない割に美食家なのだろうか。パロマは自分の考えに、自ずと破顔した。
(いえいえいえ、あれは私でも不味かったわ。ここは自分の腕を素直に認めなきゃ。・・でもお料理がこんなに難しかっただなんて。簡単に任せてって言っちゃって、軽率過ぎたかな。)
『味見』という言葉をここへきて初めて知ったパロマだった。何気なく食べていた物の有り難さに今更ながら感服する。
じっと睨んでいた鍋の中で、ジャガイモの切り口がホロホロになっている。そっと一つを取りだして、先の長いフォークで刺してみると、力を入れなくてもスーッと刺さった。
今回は干し肉も入れて塩も香辛料も少しずつ入れたから、味は大分マシになった筈だ。パロマは料理用ミトンを両手に装着し、煮えたぎった鍋をおっかなびっくり持ち上げて、慎重に厨房から出て行った。
「ユリウスさ〜ん、ご飯にしましょう。」
仕事部屋のドアを背中で押し開けると、出て行った時と数ミリも違わず仕事に打ち込む彼がいた。
「あぁ、もうそんな時間か。―――おい!まだ足が完全には治っていないのだから、重い物を持つ時は声を掛けろとあれ程言った筈だぞ。」
ユリウスは急に立ち上がると、スープを鍋ごと持ってきたパロマからサッと鍋を取り上げる。塔に来てから大分時が経って、足の腫れも随分引いてきたのに、彼は過剰と言って良い程パロマを気に掛けてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
(帽子屋敷の方々に彼の爪の垢を煎じて飲ませたい・・・)
―――聖水の様に持って行ったらその神々しさにきっと逃げ惑うに違いない。
そんな事を考えながら、ユリウスの自然な優しさに戸惑いつつも、二人揃ってテーブルを簡単に片づけ、食事の準備に取り掛かった。


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bkm


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