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(とは言っても、私も料理は初めてなのよね〜)
パロマはこれまで料理には携わった事がなかった。小さい頃は作った記憶がないし、貰われた先は一応裕福な家庭だったので、使用人がすべて用意していた。もちろん全寮制の宿舎にはエリート学校ならではの専属のコックがいて、3食については何も心配した事がなかった。逆に言うなら、此処へ来てカビ付きのパンやら具なしスープを初めて食べて、腹痛への不安やそして飢えの恐怖も知ってしまった。最悪だ。
そして、今度は作る側へと回ったものの、道具の使い方すら分からない。道具の説明はユリウスから一通り聞いたが、彼は時間が惜しいのか説明通りには使ってはいなかった。
仕方がなく、見よう見まねで始めてみたがやはり難しい。最初はサラダやチーズを切っただけで凌いできたが、そろそろ温かい食べ物が食べたくなったパロマだった。
キッチンまで来ると思案気に辺りを探る。籠には野菜類、小さな容器には卵、それに干された肉等、食材は腐るほどあった。(若干腐っていそうなのもあったが)
とにかく自分が出来そうな物を手に取り、料理に取り掛かった。


「―――美味しい・・・。」
「え!?ベーコンと卵を焼いただけですよ!?」
出来た食事を二つのトレイに乗せて部屋へ帰り二人一緒に食べだしたら、一口目で驚いたユリウスにパロマも驚いた。トレイに乗っているのは焼いたベーコンと卵の目玉焼き、それに温めただけのパンだ。
(こんな物で喜んでくれるなんて、本当に料理をしない人だったんだわ。)
次々と食べ物を口に運ぶユリウスを見て、パロマは何だか嬉しくなった。
「?何だ。」
「あ、私・・・私がした事で褒められたの、初めてなんです。」
パロマは自分の食事も忘れて、ニコニコと彼の食事姿を観察している。
「掃除も手際良くこなしているから、以前はどこかで仕えていたのではないのか?そこでも感謝位されただろう。」
「・・・すごく過酷な労働条件でしたが、叱られっぱなしで、褒められた事など一度もありません。思い返せば酷い場所でした。」
彼女の眼差しはどこか遠くを睨んでいた。
(どんな暮らしをしていたんだか・・・。)
聞かないと言ってしまった手前、質問は避けているユリウスだ、迂闊に尋ねたりはしない。
「こんなに喜んでくれるなら、全くの初心者ですが、お料理頑張ってみますね。」
パロマは満面の笑みでそう告げた。
「―――そうか、ならば頑張ってみればいい。」
彼は優しい笑顔でそう答えた。



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bkm


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