18
パロマは目の下に隈を付けたまま、一気に年取ったおばあさんの様に目をしょぼしょぼさせて手に取った針を掲げた。
「・・・・・・全く分かりません・・・。」
どうやら頭まで老朽化したようだ。ユリウスの顔が怒りで引きつっている。
「「・・・・・。」」
教える気が無くなったユリウスと理解しようとしないパロマは、それから目を合わせず黙々と仕事をこなした。




彼から与えられた仕事、それは『部品整理』だった。
時計塔の番人である彼だが、『壊れた時計の修理』も担っているのだと言う。初めて塔に足を踏み入れた時、パロマはその異色な佇まいに慄いた。廊下の壁一面に覆い尽くされた時計・時計・時計―――
数多の時計達は、大小はもちろん新古も違えば色形も違う、すべてが勝手に時を刻んでいた。まるで時計の迷宮に迷い込んだような錯覚に陥る、それが『時計塔』だった。
ユリウスの仕事部屋が散らかっているのは、よく見ると時計の部品と工具しかない。椅子の上に置いてあるのは設計図等だし、近くには紙の側には置いてはいけないであろう汚れ落とし用油と機械油が傾き加減で箱に入っている。
そしてユリウスは机に向かうや否や時間帯を全く気にせず作業に没頭している。この人は重度の仕事人間なのだと認識したパロマだった。





しばらく作業に集中したいたが、パロマはあまりに長く同じ体制で細かい部品を凝視していた為、頭が痛くなり顔を上げて眉間を軽く揉む。
「そろそろ休憩にするか?」
それに気付いたユリウスが彼女に声を掛けて来た。
「そうですね。お腹も空いてきた事だし、私、何か準備してきます。」
そう言って、作業中の物を一旦別の小箱にしまい、スカートを払って立ち上がった。パロマの二つ目の仕事、それは『料理』だった。掃除はもう任せられなくても自主的にやっている。こんなに埃が積もった場所では我慢しても住めない。その点は使用人が大勢いた帽子屋敷の時とは比べ物にならない位ハ―ドな仕事だ。もしかして時間帯の関係で汚れも元に戻っているのではないかと疑う程、いくらやっても終わらない。
そんな中、「食事にしよう。」と彼が持ってきたトレイには、またもや時間帯の関係で戻ったのかと思う程、同じものが乗っていた。
パンとコーヒー。
朝食なのか昼食なのか、まさかこれが夕食なのか?もしかして、料理できない人?と察して次からは自分が作ると提案してみたら、案の定すんなり受け入れられた。


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bkm


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