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『ハートのお城』と聞いてから彼女の頭の中では、雄大なお城に紋章が刺繍された大きな旗が優雅にはためき、赤い絨毯の先には煌びやかな王様と王女様、ヒラヒラした可愛いドレス姿のお姫様がお出迎えというシチュエーションが出来上がっていた。
「『ハートの城』は存在感が全くないお粗末な『王』と、それを尻に敷き我儘やりたい放題、少しでも気に障ると部下の首をそのままの意味で掻っ切る、傍若無人の冷酷女王『ビバルディ』が君臨する魔の王宮だ」
パロマの中のキラキラしたお城のイメージがものの見事にガラガラと崩れ去った。そんな場所に自分は向かっているのか・・・。
「そ、そ、それじゃあ、『遊園地』は?きっと夢の様な国ですよね?!」
「『遊園地』は金と欲望に塗れた醜悪な国だ。あそこに籍を置く『ボリス=エレイ』の奇人っぷりは自分の目で見て分かっただろう?」


「・・・・・」


パロマは開いた口が塞がらなくなった。
返す言葉が何ひとつ思い浮かばない。そんな恐怖の世界が存在するのか!!
アリスの顔を思い出し、目を瞑って懸命に自分を奮い立たせる。地図をもらったらスキップでお城まで向かおうなんてお気楽な事を考えていたが、どうやら事はそんなに簡単ではないらしい。
何だか火を吐くドラゴンによって塔高く囚われたアリスを助けに行く、彼女はそんな心境にすらなってきた。
心を決めて、まるで騎士にでもなったつもりでパロマは一気に立ちあがる。
「分かりやすい説明をありがとうございました。それでも私はハートの城に向かいたいと思います。」
グッと手を握り、自分を叱咤した。ユリウスは何が始まったのかと目を点にしている。
「お礼は必ずお返しするのが私の信条ですが、今はどうしても先を急がないといけないので・・・。御厚意は決して忘れません。早く行かないと、気持ちが挫けてしまいそうなので、私、もう行きますね。」
パロマは気持ちばかりが急いて足踏みしながら早口でそう言い切ると、もう一度深く礼をして、クルっと背を向けドアから走り出て行った。
パロマが部屋から姿を消すと、廊下からダダダダっと走る音がして、扉がバーンと開く音もして、その後ドッタンバッタン「キャア―!!」という悲鳴まで聞こえてきた。
「・・・・・・・。」
ユリウスは嫌な予感をヒシヒシと感じて、気が向かないながらも彼女が進んだであろう先へゆっくりと向かった。
悪い予感ほど当たる物だ。
正面の扉が開けっぱなしでそこから下を覗くと石塊で作られた長い階段の下方、丁度踊り場の所でパロマは崩れた石屑と共に、蛙の様にひっくり返っていた。
そして情けない姿を晒して、彼に向って震える手を伸ばしている。
「ユ、ユリウスさ〜・・・ん」
それを見て、彼は心底嫌そうな顔をした。


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bkm


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