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「先程はありがとうございました。お風呂まで使わせてもらって・・・。」
パロマは髪からホカホカと湯気を立ち登らせながら、目前の人物に深く頭を下げた。
ここは森から見えていた塔の中。
森を出て塔に近付く程にその建物は存在感が増し、真下に来た時は石造りの重厚感とそこここに漂う威圧感でパロマはしり込みしてしまった。てっきり近くに民家でもあるのだろうと踏んでいたのだが、おぶってくれている人物は塔の正面階段を迷いなく登っていった。訳も分からず、しかし足が地に着いていなければどうにもならない彼女は、運ばれるがまま表門が重く開かれるのを、固唾を飲んで見守った。
彼はユリウス=モンレーだと自ら名乗ってくれた。
澄んだ碧眼に光りの加減では蒼く光る髪の彼は背が高い割に華奢な造りの実直そうな男性だった。そして彼は正真正銘ここの持ち主だったのだ。
「とりあえず、適当にスペースを作って座ってくれ。」
ユリウスはパロマに背を向け何やら作業をしている。どうやら仕事部屋の様だが塔内の他の場所とは一風違っている。机の上は至る所に何かの部品が無造作に転がり、地面に至っても同じ状態だ。椅子の上は何かの本が山と積まれていて本来の用途としては使えそうにない。曇った窓から日差しが差し込み、綿埃が光りに反射し舞って見える。
要は汚いのだ、それも異常に。
パロマはキョロキョロと辺りを見渡し、ソファの端っこに遠慮がちに腰かけた。
外観と内装の違いにパロマは言葉を無くす。
「ほら。」
振り返った彼は小さなトレイを持っていた。その上にはパンと湯気立ち上るカップが置かれている。
「―――え?」
「腹が空いているんだろ?こんな物しかないが。」
黙って食べろ、と言うと彼はパロマにトレイを強く押し付けた。パロマはそのまま受け取る形になり、膝の上の物を凝視する。
「あ、ありがとうございます。」
今までに受けたこともない優しい対応にドギマギしながら、カップに口を付けて一口飲む。そしてすぐにハッとして、
「あ!あああの、飲んじゃってから何ですが・・・毒とか、入っていませんよね?」
「―――お前は今までどんな暮らしをしてきたんだ・・・。」
白けた顔をしたユリウスに、やっとパロマの気持ちが楽になって、パンも大きくかぶり付いた。



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bkm


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