09
今度は後ろを向いても首根っこは掴まれなかった。が、方向がイマイチ自信が無いので、悩んだ末にやはりもう一度振り返った。
「―――ちなみにハートのお城はこっちで良い・・・え?」
驚愕するパロマの後方で、彼は静かに銃を取り出していた。
「アリスに会いに行きたいんだろ?俺が連れて行ってやるよ。」
優しい言葉とは裏腹に、無表情で銃を構えた彼を信用できる筈も無い。ゴクッと唾を飲み込んで、パロマは断りの文句を口にした。
「・・・け、結構です!貴方が一緒だとアリスに会える気がしません。」
「それはどういう意味?俺が連れて行かないって?それともアリスが俺を避けているとでも?」
何が彼の逆鱗に触れたのか、彼はどす黒い怒りの表情を隠さなくなっていた。
「な、何の話?!銃をこっちに向けるの止めて下さい!」
二人は間合いを取って睨みあった。一歩でも動けば何かが始まる。しかし、その一歩を彼がすぐさま仕掛けて来た。彼の表情は、怒りを通り越して殺意すら感じる顔になった。
「アリスの敵は俺の敵だあああ!!!元の世界に返すなんて言い出す不届き者は今すぐ抹消してやる!!」
「アリスの味方が私なんです!!!言い忘れましたが、私は猫アレルギーなの!!」
パロマの失礼な一言で、森の一部は一気に戦場と化した。






「きゃあぁああああああぁ―――!!」
パロマ、3度目にして、またもや森の中を疾走中。
今度は後ろからバンバンと発砲する音が木々の間で木霊した。右にあった樹木に丸い穴が貫通し、左にあった草が吹き飛ばされて茎から上が無くなった。
「くぉらああ―――!待て―――!!!!」
「待てませえええん!!!!」
猫耳の彼とパロマの追いかけっこは、いつまでも続くように思えた。





「ほ〜ら。もう観念しろよ?」
猫耳の彼がパロマの頭を片手で掴んで、近くにあった木に押し付ける。これで、彼女は一歩も動けなくなった。両手でその手を払おうとするが、指一本動かない程、力の差は歴然としていた。とうとう追いかけっこは彼の方に軍配が上がって、終止符を打ったのだった。
「・・・っ!離して、下さい。」
「逃がすか、バ〜カ!さっきの威勢はどこに行った?」
パロマの方は度重なる全力疾走で、息も絶え絶えだ。逆に同じ状況だったにも関わらず、彼の呼吸は全く乱れていなかった。獲物を捕まえた肉食動物は餌を玩ぶ事を忘れない。


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