08
パロマは顔中を真っ赤にして、クシャクシャになった幼児のお絵かきを急いで奪い戻してポケットにしまった。彼はツボにハマったのか、はたまた笑い上戸なのか、ずっと腹を抱えて笑っていた。
(本当に・・・・一々ムカつく人ねっ)
パロマがこめかみをピクピクさせながら、苦しそうな彼の反対を向く。そして一歩を踏み出した所で、躊躇いがちにまた後ろを振り返った。
「―――ちなみに・・・貴方はどこへ向かっているんですか?」
地図も使えなくなり完全に迷子のパロマは、二歩三歩と先に進むにはいささか迷いが生じたのだ。また帽子屋敷に舞い戻ってしまったら逃げ出した意味がない。アリスに会う事も出来ずに、真っ先に自分の命が無くなるだろう。パロマはさり気なくを装い、笑いが収まってきた彼に向かう方向を尋ねた。
「あ?おれ??もう遊園地に帰るんだよ。あんたは逆方向へ行け。」
「え?・・・貴方、遊園地から来たんですか?―――それじゃあ、この女性を見かけた事はありませんか?」
パロマは再度ポケットの中をさぐり、今度は写真の付いた書類を彼に見せる。もちろん写っているのは遊園地を背にしたアリスだ。
「名前はアリスと言います。遊園地に滞在していたと伺いました。ご存知ないですか?」
「―――知っているよ。もちろんね。」
彼は写真を暫し眺めてから、ゆっくりと答えた。
(あぁ!やっぱりアリスがこの世界に来ているのは本当だったんだ。)
「それだけ分かれば十分です。それではまた。―――ぐぇっ!!」
パロマが書類をさり気なくを装いサッと奪い返し反対に向きを変えた所で、またもや首根っこを掴まれた。今度は相当力を入れてきたので、首が締まって息が詰まる。
「ちょっく、苦しい・・っ!何なんですかさっきっから!!」
「勝手に話を終わりにするなよ。それで?あんたがアリスに何の用?」
「ホントに何なんですか!私は猫じゃないんですから、首掴まないで下さい!!」
「―――何の用かって聞いてんだよ。」
先ほどとは違い明らかに威圧的な話し方だ。彼は眼光鋭くパロマを睨み付ける。
「私はアリスを助けに行きたいんです。会って一緒に元の世界へ帰るんです。」
それを聞いた彼は驚いたようにパロマを凝視する。


「あんた、よそ者・・・?!」
「?は?くせ者??」


「「・・・・」」


無言でにらみ合う二人の頭上を、何だか分からないギャっギャっというけたたましい鳴き声が響き渡った。
「―――とにかく、アリスをこんな危険な場所から一刻も早く連れ出さないと・・・。あんなに可憐で可愛いんですもの。きっと不審人物にちょっかいをかけられて泣いて逃げ回っているに違いありません。」
「・・・・」
「元の世界を恋しがった彼女を上手く利用して、彼女を騙そうと目論むいやらしい人物は遊園地にはいませんでしたか?私には心底嫌がっている彼女が目に浮かぶんです。アリスは・・・彼女は笑顔で過ごせていたんですか?」
「・・・・・・・・・・」
パロマの台詞に何故だか彼がカチンと固まったまま一言も返答しない。ずっと饒舌だった彼が一言も喋らない事で、これは予想が的中したと確信し、パロマは自分の目的を果たそうと踵を返した。
「答えて頂かなくて結構です。私が自分でアリスに聞きますから。いろいろ教えて頂きありがとうございました。」


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bkm


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