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「あの、この前は助けて頂き、ありがとうございました。本当に本当に感謝しています。あと、コートを汚してしまってすみませんでした。」
深々と頭を下げてから、手に持ったコートをブラッドに差し出す。驚いたブラッドは思わず呟いた。
「―――お前、こんな事の為に無理をして階段を登ろうとしていたのか。」
「はい。お礼は生物と一緒で早くしないと鮮度が落ちちゃうんですよ?元気になったら誰よりも一番に、お礼が言いたかったんです。」
そう言ってパロマは笑った。
それはそれは女神の様な清らかな微笑みだった。一瞬言葉を無くしたブラッドだったが、我に返ってパロマからコートを受け取った。
「まだ完全回復には至っていないだろう。だが、丁度いい。私もお前に尋ねたい事がある。」
パロマの腕を取り、来た道を戻るように手助けをする。腕を取られたパロマは何だか俯き加減で、頬を赤く染めていた。
「お前、あの時もし誰も助けに来なかったら、どうするつもりだったんだ。」
ピタッと歩みを止めて、パロマはブラッドを見上げる。少し眉をしかめて考えてから、
「う〜ん・・・。死んでましたね。」
ケロッと答えた。
「落とし穴の中で、落ち葉と一緒に土に返っちゃうのかな〜なんて考えたりしていました。ボスみたいにいろいろ思い付けば良かったんですけど。あの時は心の底から助かったぁ〜って思いました。」
こともなげにそう言い切るパロマ。それを聞いてブラッドの方が絶句した。
この世界は命の重さがとても軽い。誰もがそこに重点を置かないからだ。しかし、それは天命があるのと、逃げられるのに逃げなかったのとは訳が違う。この女は力が弱すぎる。今までどうやって生き延びて来られたのだろうか―――
(この美貌を使って保護欲を誘い、媚び諂い生き抜いて来たとでもいうのか・・・)
何も疑わず、自分の後をヒョコヒョコ付いてくる可愛い小鳥。
―――それならば、精密な檻を作って自分の下で従順に躾け飼いならしても―――
「送って下さって、ありがとうございました。・・・あれ?どうかしましたか??」
いつの間にかパロマの部屋の前まで戻ってきていて、クルッと振り向いたパロマは自分に向かったブラッドの手に目線を向けた。ブラッドは何事も無かったかの様に、その手を使って彼女の後ろのドアノブをカチャリと回す。
「ゆっくり休め。」
そう言って笑顔を作ってやると、パロマは見る見る真っ赤になった。
「あ、あの、実はお渡ししたい物があるんです。あっでも、まだ製作途中で、気に入ってもらえるかも分かりませんが、感謝の気持なので、どうか受け取って下さいね。」
喋りながら真っ赤になったパロマは、言うが否や慌ててドアを閉めた。


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bkm


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