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ヒョコヒョコと危なそうに歩いているので、今にも転びそうだが不思議にも転ばない。前に向かいながらその様子を伺っていると、その奴隷は何とか階段の所まで辿り着いた。
しかし、その先の一歩がなかなか踏み出せない。
自分の足元と階段の先を交互に見比べて、心を決めたのか包帯を巻かれた足を一段目に下ろすと、震えが足元から頭の毛先まで這い上がったのが見ていても分かった。
足を一旦引いて、今度は荷物を頭に載せて両手で手すりに掴まりながら逆足を使って飛び上がる。すると案の定バランスを崩してドベッと床に背中から落ちた。ゴツッと頭を地面に打ち付ける音が聞こえて、直後に荷物が顔面にドサッと降ってきていた。
「ブッ」
思わず笑いが込み上げてきた。


―――トロい!!アホみたいに予想通りの展開だ。


何気なく笑った事等どの位振りだろう・・・。
監視のつもりで見張っていた筈が、違う目線でこの女を追ってしまう自分がいるのに気付いたのは、何時だったか。一皮剥けば悪女が必ず顔を出すだろうに、いつまでも純白を保っているこの奴隷に、知らず識らず安堵している。
気が荒んだあの10時間帯、森で偶然木に引っ掛かった紙切れを見つけて、真下に双子が作った落とし穴がぱっくりと口を開けているのが分かった瞬間・・・あの時の感情は何だったのか。今まで感じた事の無い様な高揚感に包まれた。
しかし穴の中で全く身動きをしないこの女に何故か焦燥してしまい、らしくもなく直ぐに声を掛けてしまった。それに気付き真っ直ぐに見上げてきた潤んだ碧眼、頬を朱に染めて小憎らしい大輪の笑みで両腕を差し出し、無防備に全身で縋ってきた。自分の気持ちがグラっと揺らいだのを今でも鮮明に思い出す。
―――この手に抱いたら、もう二度と逃さない。
そう思った。衝動的にあのか弱い腕を取り、思うがままに抱き締め自分の中に閉じ込めてしまいたくなった。―――膝に置かれた書類に気付くまでは・・・。

ブラッドは過去に逡巡したまま歩みを進めていたら、頭を抱えてうずくまっている彼女まで到着したので、何気なくを装い助けてやる事にした。
「おい、まだ部屋で大人しくしていろ。こんな所で倒れていたら目障りだ。」
「はっ!!!ボボボボボス!!これはっその、何て言うかっ」
真っ赤になって言い訳を探すパロマに、ずっと前から見ていたと言ってやろうかとも思ったが、立ち上がるのに黙って手を貸した。
「上の階に何か用なら他の者を使え。その位なら奴隷のお前でも許してやろう。」
「あっ、いえ。用ならご本人が目の前にいるので、今済みそうです。」
いぶかしげなブラッドをよそに、パロマは顔面から床に落とした荷物をイソイソと拾い上げた。


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bkm


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