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屋敷に帰って怪我の具合を見てもらったパロマだが、骨には異常が無かったものの、足の状態が思いのほか酷く、ギブスで固定ししばらく安静を取る事となった。しかも半刻も経たない内に足の炎症のせいで高熱まで引き起こした。「お前は何でそんなに貧弱なんだ。」とブラッドは罵ったが、それでもしっかり仕事は休みにしてくれた。
自分のベッドで虚ろに熱と闘っているとフとした瞬間に目覚めた時、机の上に置いてあった皿に、残りのパンの代わって直にも蕩けてしまいそうな位プルンとしたカスタードプティングがちょこんと載せられていたのを、視界の隅に捉えた。
それからというもの、眠って起きると必ずと言っていい程お皿に何かが乗っていた。それは美味しそうなキッシュだったり、見るからに甘そうなタルトだったり、時間帯によってまちまちだったが、どれもパロマの好物ばかりだった。
―――それは、パロマの体調が良くなるまで続いたのだった。




ベッドの住人だったパロマだが、何時間帯かをゆっくり過ごすと熱は順調に引いて行った。
ところが熱は平熱まで下がったのだが、足の腫れは一向に治らず、しばらくはギブス生活を余儀なくされた。溜息をつきつつベッドの上で足の状態を見ていたパロマは、一つやる事を思い出した。
(あ!!ボスにお礼言いに行かなきゃ!)
穴から助けてもらった時は、安堵と疲労でブラッドにお礼を言うのをすっかり忘れていたのだ。同僚にブラッドのフロックコートがクリーニングし終わったら、自分から渡すと願い出たので、部屋の隅にはキチンとハンガ―に掛ったコートが、埃よけに布を被せて掛けてある。渡しついでにしっかりと感謝の気持ちを伝えよう、という作戦を立てたのだった。
ベッドから片足を使って飛び降り、ピョコピョコとそれを掴んで綺麗に畳んでからピョコピョコの急ぎ足で部屋から出た。



その頃ブラッドは、正面扉から屋敷に戻ってきた所だった。若干表情が硬い。庭には銃声と金属に銃弾がぶつかる音が絶えず響いていた。
「こんなオレンジ色の物ばっかり食べられるかー!!」
「バカウサギ!野生に帰れ!!」
「うるせぇ!黙って喰え!!でなけりゃ空腹でのたれ死ね!!!」
バタンと扉を閉めれば外の音は一切遮断され、一気に静かになった。冷静さを取り戻したブラッドは襟元を正し、足取り軽く廊下を進む。すると、はるか前方にカメ程に遅い歩みの奴隷がいるのに気が付いた。


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bkm


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