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料理を指していたパロマの指先が動揺にビクッと震えた。
――――やっぱりか・・・・
その場にいる傍観者全員がそう思い、深くため息を吐く。恐らくそうなるだろうと重々
分かってはいた。
エリオットの前のテーブルの上には既に大皿は無く、代わりに床には当たった衝撃で砕かれた白い皿と、完成するまでにかなりの時間を費やしたのであろう料理達の見るも無残な残骸が方々に飛び散っていた。
大好物の人参を使ってまでしても、駄目だったのか。パロマの努力が一ミリも成果を現さなかった場面に遭遇してしまった面々は、最早気まずさしか残らない。
他の給仕係達が目に見えて肩の力を無くす。
エリオットの苛々した態度が屋敷全体に浸食して、ここ最近は良い環境とはとても言える状態ではなかった。ダメ元でもやってみると健気なパロマの意気込みに感化されて、こんなド派手な食事会の準備も皆で協力して手伝ってはみたのに。
望みの綱は無残にも絶たれてしまった。
この食事が終われば、全員がオールドソーンズの仕事に追われる。そうなると、パロマが私的にエリオットへ弁解を求める機会は、この先当分訪れないだろう。
内心小躍りしそうな位喜びが満ちているのは双子のみ。
(やりやがった。完璧にパロマに嫌われたな。これで完っ全にあいつはコースアウトだ。)
(パロマももうあいつには近づかないでしょ。フフフ、後でしょげているパロマを慰めに行ってあげようよ。)
と、誰にも気づかれず二人小さく会話をすると、意気揚々と食事を再開し出した。
ブラッドも我関せずと紅茶を嗜んでいる。
エリオットが乱暴に椅子を引いたので、もう退出するのかと給仕の者達が慌てて通路の汚れを拭き始めると、

   ぐいっ!!



パロマが予想外な行動に出た。
立ち上がり掛けたエリオットの両肩を手で力強く押して、座り直させた。
力で押し返す事も出来ただろうがエリオットも意表を突かれたせいか、そのまま椅子の背にもたれかかる。
だからといっても、無理矢理座らせられたとなると怒りが積り、ギラッと下から上に睨みを効かせてパロマを見上げると――――パロマの方が喧嘩を吹っ掛けそうな勢いでギッとにらみ返してきた。


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bkm


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