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自動開きではない扉が急に開いたのは、無理やり仲間に加えさせられた部下1号と2号の仕業か。ご丁寧な事にパロマとスカーフが色違いなだけの同じ衣装を着て、彼女より数歩後ろに控えている。顔は何とか笑顔を保ってはいるが、成功率の低そうなこの余興に早くも口元がヒクヒクと引き攣り始めていた。
ブラッドと双子はパロマが何を企んでいるのか瞬時に悟った。この状況で悟れない方がおかしい。そもそもその企てが必ず成功すると過信してそうなパロマの強気な態度が何よりもおかしい。ブラッドは白けた顔で鼻を鳴らし、双子に至ってはダラケまくった姿勢になりお互い顔を合わせると、武器屋に向かわなかった事を心底後悔した。
エリオットだけは3人と真逆にリラックスした体制から急にブワッと黒いオーラが漲り出した。ビクッと肩を揺らしたパロマからすぐに視線を逸らして、それからはあたかもパロマは存在しないかの如く完全無視を貫く事にしたらしい。
ほら、また失敗した。
と、後ろに控えた1号2号がパロマに視線で訴える。
パロマはその視線を無視しつつゴクッと唾を飲み込むと、意を決してズンズンと部屋の中に入っていった。
「お仕事の話は一端中断して、席に着いて下さいね。・・・っ・・・ほ、ほら、ディーとダムも姿勢を正して下さい。」
ブラッドの為に椅子を引いたパロマは次にエリオットの椅子まで引こうとしたが、彼から発せられる嫌悪感という瘴気にあてられ、慌ててその手をひっこめた。
(こっ・・怖いっ・・・でも、他の人の手を借りてまで準備したんだから・・!)
手を伸ばしたら肩に届きそうな距離にいるのに、そのエリオットの背後からはパロマ限定の完全拒否オーラがビシビシと伝わってくる。その怖さでやる気の80%位を既に消費してしまったパロマは、ここまで嫌われてしまったのかと既に半泣き状態だ。
しかし、
一度やり遂げると決めた事だ。後には引けない。
無理やりではあったが、引きつる口元を何とか笑顔に変えて、まずは双子たちの椅子を押してだらけた態度を正させた。
双子のシラ―っとした視線を一身で受け止めているパロマは、ことさら元気に明るく振舞い出した。
「こっ今回は、我儘を通してオペラの練習を最後までさせて頂いたお礼と、いつもお世話になっている皆さまへの感謝の気持ちを込めて、手作り料理を用意させて頂きました〜!!」
無表情のエリオットを除いた3人が「ゲッ」と表情を歪める。
何度か味見と称して出された料理に、美味しいという文字は無かった。近頃はとんと無くなっていたので、油断した。まさか、一人一皿何かしらで出てくるのだろうか。
3人の嫌な予想が見事的中して、パロマは大きなワゴンをガラガラと押してきた。
こには釣鐘型の蓋が被さっているトレイが4つ。数的にも丁度ピッタリだ。
ワゴンの動きが止まったのは双子が座った椅子のすぐ近く。必然的に二人の姿勢にもその動揺が顕著に表れる。椅子に浅く腰掛けた二人は逃げ出す為のルートを素早く確認していた。が、しかし―――
「ディーとダムには育ち盛りに栄養満点、サーロインステーキとグリルチキン彩温野菜添えです。ソースは4種類あるので、お好みで使って下さいね。」
「「うおおお――っ!!」」
見てビックリ。パロマがパカッと蓋を開けると、中からワッと焼き立ての湯気が上り、まだジュージューと音をたたせているステーキ肉が良い感じで肉汁を滴らせている。
逃げる気なんて早々に失せたディーとダムは、パロマをからかうのも忘れて椅子に深く座り直し早々にフォークとナイフを手に持った。
二人が肉を切るのに格闘しているさ中、今度はテーブルの反対側にまでワゴンを進め、ブラッドの前にも料理をセットするパロマ。にこやかに料理の説明をしつつ、小さなお皿にロールパンとひと欠片のバターを載せてメインディッシュの近くに添えるのも忘れない。


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bkm


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