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配役の最終決定がなされてから、パロマは腹を括ってブラッドの書斎に向かった。


『自分は経験不足でプロの演技力には遠く及ばす、主役には選ばれなかった。』


ブラッドにはずっと言えなかった、胸に刺さる真実を告げたのだ。
主役を演じてみせるとあんなに豪語していたのがとても恥ずかしい。辛くて小さく縮こまっているパロマに、ブラッドは怒るでもなく「そうか」と言っただけだった。
ただ、舞台に上がらないなら、現地に行く必要も無いと言い渡され、パロマは屋敷の警備隊と一緒にここでお留守番となったのだった。
出来る事ならみんなの勇士を自分の目で見てみたかったが、そこまではさすがに我儘が過ぎてしまう。
出かかった言葉はグッと呑み込んで、「はい」とだけ返事をした。
なのでこの先は、屋敷の中で舞台の成功を祈る位しか出来ない。パロマは一つだけ心残りがあって、クリスティーヌを不安そうに見上げた。
「あの・・・、頼んでしまって良いのか分かりませんが、もしかしたら私の知人が舞台を見に来るかもしれないんです。知人は私がオペラハウスにいない事を知りませんので、もし、私を尋ねにくる人がいたら、会えない事を謝っていたと伝えて頂けませんか?」
「大丈夫だから。私が絶〜っ対何とかしてあげるからね?!これまで費やした時間を無駄にしてなるものですかっ!」
クリスティーヌの舞台に向けた意気込みが半端無い。こんなに強く約束してくれるのだから、もしアリスが訪れても安心だと、パロマは勝手に解釈した。
「よろしくお願いします」の気持ちを込めてクリスティーヌの両手を取ると、「二人で目のモノ見せてやりましょう!!」という気持ちでクリスティーヌは逆にギュッと握り返す。
見た目だけなら、師弟の感動的な別れのシーンだ。志は全く違う方向に行ってはいたが、それを気に食わない者達がグイッと二人の間に割り込んだ。
「ねぇ、早く行ってくんない?メチャクチャ目障りなんだけど。」
「つーかパロマと距離が近過ぎ。早く離れろ。向き変えたら二度と振り返るなそして一生この敷地に足を踏み入れるな。」
「「・・・・」」
別れを惜しむ二人が言葉を失う。
そこにはギラギラと睨んでくる双子の姿があった。
見送りに立ち会っている二人がいたのは知っていたので、その場に居るのは違和感がないが、それにしても、二人の纏った威圧的なオーラが凄まじい。特にクリスティーヌに向けて発せられているので、「ひぃぃっ」と小さく悲鳴を上げた彼女は背筋を伸ばして一歩二歩と後ずさった。
必然的にパロマの背中に隠れた形になったクリスティーヌは、パロマにだけ小さく耳打ちする。
「あんた、よくこんな所で生きていけるわよねぇ。怖くないわけ?一般人だったら絶対に近寄らないお屋敷よ。お知り合いにもなりたくないわ。」
「こっちだって願い下げだよ。オカマのお姉さん。」


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bkm


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