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時間帯は流れ、舞台は本番に向けての最終仕上げに入った。
オールドソーンズに建設中だった舞台会場がついに完成したのだ。
大道具等、粗方の物は直接会場へと運ばれていたが、屋敷の離れにある大広間にも舞台に必要な資材が多く残されていた。屋敷の正門には何台もの荷物車が縦列し、団員達が忙しなく荷物の移動をしていた。
パロマも荷詰めを手伝いながら、ガランとしてきた大広間を眺める。部屋の出入り口付近にはクリスティーヌがキビキビと身ぶり手ぶりで団員達に指示を出していた。
開演が近づいたオペラのチケットが瞬殺で完売したと、彼女が堪え切れない笑みで伝えてきたのは記憶に新しい。
クリスティーヌが人脈を使ったのか、はたまたブラッドが得意先でも招待したのか、特に大きく宣伝した訳ではなさそうなのに、チケットは売り切れたという。
もしかしたら、出来たてのオペラハウスは小規模な造りで、売り出されたチケットの枚数もそんなに多くはないのかもしれない。オールドソーンズがどんな街なのかも、クリスティーヌが指揮を振るう題目がどれ程注目を集めるのかも、この世界での生活が浅いパロマには知る由も無かった。
すっかり荷物が出されてしまうと、後は団員達が現地へ向けて出発するのみとなった。
森へと続く道を行く団員達に、パロマは正門手前から大きく手を振って見送る。
「パロマ。」
最後の一人となったクリスティーヌが、ゆっくりとパロマの近くまで寄って来た。
「やるべき事はすべてやったわ。後は何にも考えないで適度に食べてしっかり寝ておきなさい。」
「フフ、それは私が言うべき言葉ですよね?クリスティーヌ先生。」
クリスティーヌがまるで出演者に向けてのアドバイスなんて口にするから、パロマは思わず笑ってしまった。しかし、クリスティーヌは鼻を鳴らすだけで、間違いを正そうとはしない。
「フン。アンタは私の言う事を素直に聞いてりゃいいの。ちゃんと言う通りにしていなさいよ。」
「はぁい。適度に食べて、しっかり寝ておく、ですよね?」
これは恐らくクリスティーヌの自分に対する気遣いだ。
専属で稽古をしていた期間も含めれば、二人でいた時間は劇団の誰よりも長い。だから、多少は自分の演技に入れ込んでくれていたのだと思う。なのに・・・
「あの・・・私、大丈夫ですから。やっぱりお芝居が大好きだって、再確認出来ただけで、本当に満足なんです。」
「・・・・パロマぁ・・・・」
「だから、クリスティーヌ先生がそれを気に病む必要はありません。」
こんなに付いて回ったのに、主役の座を勝ち得られなかったのが逆に申し訳ない。最終的に配役を決めたのはクリスティーヌだから、パロマを落としたのを気にしているのだろう。
まさか、パロマが舞台会場にさえ行けなくなるとは、思ってもいなかったのだろうから。






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bkm


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