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やれやれとクリスティーヌがほぼ灰と化してしまった煙草を簡易灰皿に擦り付けた。
「ねぇ、だからアンタ良い?やり方も分からないのに無暗やたらと仕掛けたってできゃしないのよ。相手の立ち位置に合わせちゃいけないの。自分のテリトリーに相手を引きずりこまなきゃ。」
「?」
パロマが瞬きをすると、濡れた睫毛も緩く動く。自分の悩みに対する答えとしては唐突な出だしで驚いているのだ。
「だからぁ、あんたの得意分野って何なのよ?―――オペラでしょ?!」
パロマが「あっ」と息を飲む。
「私達は演じて人を魅了するのが仕事なの。演出してみなさいよ。派手な登場!気を引くチャッチフレーズ!目配せ。仕草。指の先から足の爪先まで、動かし方は今まで散々習ってきたんでしょ?!それを使えるのは別に舞台の上だけじゃないって事よ。」
「―――――っあ・・・・」
「しょげてる暇があるなら、それこそ稽古に打ち込みなさい。技術も磨かれて、自分の気持ちとも向き合えて一石二鳥ってもんじゃないの。」
「そっそうですね!ありがとうございます、クリスティーヌ先生!!」
「分かればよろしい。」
パロマの表情がぱぁぁっと明るくなる。
素直で人の話を信じやすいパロマなんて、操縦が簡単で逆につまらない位だ。


(・・・・・・んん?・・・ちょっと、待てよ?)
そこでクリスティーヌは、はたと気付いた。


何も別に仲を取り持つ必要は無いのではないか。
ここでさらに険悪な仲となり、この屋敷の中でのパロマの居場所がどんどん無くなってくれれば、寂しい思いを抱えるパロマは、打ち解けた劇団員と行動を共にしたいと言い出すのではないか。
根は歌うのが大好きな娘なのだ。
代役で十分満足していると本人は言ってはいるが、最近を抜かせば誰よりも練習に励んでいたのは誰でもない、パロマだ。
本当はパロマだって劇団に残りたいというのが、正直な気持ちなのではないのか。
何があったかは知らないが、マフィアの幹部達がパロマを見捨てるのだったら、パロマをこちら側に引き抜く、またと無いチャンスなのでは。
(この子に絡んだ秘密の取り決めをこの場でバラしちゃったら、パロマはきっと・・・うふっ・・うふふふっ)
大波に乗って押し寄せる誘惑的な企みに、クリステーヌの気持ちがグラリと揺らいだ。
が、揺れたのは最初だけで、計算高いクリステーヌは誘惑にまるまる呑み込まれてクルッと向きを変えた。
「ちょっと待って〜!パロマ!!実はあんたに言って無かった事がっって、もう!!いないんじゃないのよっっっ!!」



考え事が長かったせいか、大道具の狭間にいた筈のパロマの姿は、すでにその場から消え去っていた。








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