24
「私、人との距離を測るのがとても苦手で・・・。」
「はぁ・・・?」
口元に手を持って行って思案に暮れる姿は、到底冗談を言っている感じでは無い。
「家族でも無い人が・・・あ、私は貰われっ子なので、血の繋がった家族っていないんですけれど・・・それで、全く関係の無い人から私に近づいてきてくれる事って、本当に希って言うか、今まで一人しかいなくて・・・どうしよう、私の話ってすごく分かりずらいですよね?」
「・・・・良いわよ、別に。・・・それで?」
ポツリポツリと話し出すパロマを冷静に見詰める。稽古の合間の休憩時間では、劇団員の派手なお喋りの輪の中でにこやかにほほ笑んでいる程度のパロマだからか、身の上話を曝け出す姿は非常に珍しい。それはいつもより身体が小さく縮んだみたく見えて、とても頼りない姿だった。
「近づいてくれると、本当はとっても嬉しいんです。こんなに心が暖かくなるんだなって。その分いっぱいいっぱい、その暖かさ?みたいな物を、お返ししたいんです。私以上に嬉しくなってもらいたくて。今まで優しくしてくれた人達に、いつもそう思っています。」
(愛の告白??・・・・ん〜でも、今『人達』って言ってたわよね・・・?)
パロマの話の途中途中で首を傾げながら相づちを打つ。彼女の言わんとする所は、異性に対してと言うより、親しい者に対しての感情の事か。そうなると世界が狭いパロマの親しい者と言ったら、この屋敷の住人という事になる。



――――よくそんな感情を持てるものだ・・・



パロマの上司達の重度の拘束っぷりは、どう考えても心を許した親しい間柄という感情を逸脱していると思う。
はっきり言って、重い。
自分だったら確実に耐えられない。
屋敷に縛り付けて一歩も外には出さない。屋敷を取り囲む高い塀は、敵の侵入を防ぐ為ではなく、パロマを逃がさない為ではないのかと本気で疑う程だ。
屋敷で働く者達のパロマに対する態度も徹底されている。上司の思惑を上手く隠して、囲われていると思わせない雰囲気作りに切磋琢磨している。
しかし、結局の所は、何にでも鈍感なパロマが最もいけないのだろう。
・・・だから、自分なんかにも付け入られるのだ。代役と言う名の真の主役に居座っている現状も知らないで――――

「―――ですから、お稽古に実が入っていないのも、自分が一番分かっています。でもこんな経験、初めてで。・・・・離れていっちゃう人をどうやって引きとめたら良いかなんて・・・全然思い付かなくって・・・っ」
「・・・・・・・・ん?あっ・・・・あぁ〜・・・そ、そうねぇ〜」
一人考え事に没頭してしまった最中もパロマの独白は続いていたみたいだった。震える肩が必死に泣くのを堪えている。これはもしかしたら、自分が何か助言をしてあげなければいけないターンに突入したのか。
(まずいわぁ、ちぃっとも聞いて無かったけど・・・・)
内容はともかく、要はこの精神未成熟のお子様の元気を回復させて、気持ちを舞台一本向けさせる。自分のやるべき仕事は決まっているのだ。


prev next

337(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -