23
その頃、エリオットに全く相手にされなかったパロマはかなり出遅れた感じで舞台の練習に加わった。
「遅くなりましたぁ・・・」
覇気の感じられない声で小さく挨拶すると、主演陣を一列に並べて厳しく指導していたクリスティーヌの耳がその声に反応してダンボになる。ギッと出入り口に振り返ったクリスティーヌの顔が、般若の顔に変わった。
「ぱあろおまあああああ〜〜〜〜!!」
指導も中断してパロマに詰め寄ったクリスティーヌの厳しい叱責がすぐに始まる。本番の舞台が押し迫っているので気が立っているのか、捲し立て方が通常の2倍速で聞き取りもしづらい。
ガミガミ怒っている最中、クリスティーヌは気が付いた。いつもみたくパロマから「すみません」やら「ごめんなさい」やらのしおらしい返答が返って来ない。一度怒鳴るのは止めて、身を屈めて下向き加減のパロマの顔を覗き込んだ。
「どうしたってのよ、いつもの元気は。・・・・あ?あら、あんた・・泣いてるの?」
「泣いでまぜん・・・っ」
そう言ったパロマは必死で涙を落とすのを堪えている。何だ何だと集まってくる団員をクリスティーヌが顎で制して、練習を再開させた。
「泣いて無いって・・・・あんたねぇ〜、役者が本番間近でそんな情緒不安定でどうすんのよ〜。ちょっと、みんなの気が散っちゃうからこっちに来なさい。」
震える肩をそっと引き寄せで、困った顔をしながらクリスティーヌは控え室へとパロマを連れていった。





「・・・で?どうせまた〜、いつものなんでしょ?あんた今、自分がどれだけ大事な時期か分かってんの?公私混同し過ぎ。プロの端くれにも置いておけないわ。あんたねぇ〜、身内に不幸があったって最高に幸せって笑顔でステージ上がるのが役者ってもんなのよ?それを、あんた・・・・・はぁ、馬鹿過ぎで言葉も出ないわ・・・。」
「・・・・・ほんとうに・・・すみません。」
「・・・・・その萎れた態度もやってらんないわ。」
大道具のスペースに、クリスティーヌが吹かした煙草の紫煙がゆっくりと広がる。腕を組んだクリスティーヌはさも呆れ顔だ。どんなに叱られても踏ん張りを見せて来ないパロマに怒りの気持ちがどんどん失せて行く。
どうしたものか・・・。本番はこのままパロマでやっていけるのだろうか。
最悪、主役と言う仮の名を持つ代役を使う事も出来るとは思う。しかし・・・そうなると、自分が追い求める究極の舞台にまでは到底辿り着けない。パロマをより輝かせる為のストーリ設定、配役、舞台演出。
つまりは彼女無しでは、生命を持たない、2流止まりの舞台になってしまう。
「・・・・・・わたし」
「・・は?」
考え事をしていたら、思いつめた様にパロマが話し出したので、煙草を吸う手を止めて聞き耳を立てる。


prev next

336(348)

bkm


top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -