19
見物している自分達に近づいて来た所で、会話もしっかり聞こえてくる。ゴチャゴチャ言っているのはパロマだけで、エリオットは一言も口を開いてはいない。
「エリオットさんっ、ちょっ・・・ちょっと待っ」
パロマが最後まで言い終わる前に、エリオットがクルリとパロマの方へと向きを変えた。利き腕の右手を銃に掛けた状態でだ。
「ひぅっ・・・!!」
途端にパロマが息をのんだ。目がエリオットの銃に釘付けになり、一歩二歩と緩く後退る。エリオットは終始表情が変わらなかった。暗く淀んだ瞳でパロマを睨む。そして、怯えるパロマをその場に残して、ザッザッと屋敷の中へと入って行ってしまった。
「〜〜〜っっ」
エリオットの姿が見えなくなると、腰抜けたのかパロマはその場でズルズルと地べたにしゃがみ込んでしまった。
(・・・・ったく、痛々しくって、見てられないんだよっ)
いつも、ここまで見守ると、自分達の方が切なくなってしまうのだった。


パロマが押している時間を割いてまでしてここに来るのは、自分達にではなく、エリオットに会う為だ。


逃げるエリオットと、追うパロマ。


パロマがエリオットの触れてはいけない逆鱗にベタベタと触りまくったらしい事件の後、すぐにこの構図が出来上がった。
詳しくはパロマを透明人間と見なすエリオットに必死に食らいつくパロマという所か。
感情の赴くままに生きるエリオットが怒りに任せてパロマを手に掛けなかったのも驚きだが、しつこく付き纏うパロマに未だ手を掛けないのも驚きだ。
しかし、すべてを許すまで大人にはなりきれず、ずっと無視を続けている。
そんなエリオットにパロマは必死で誤り続けているのだ。
エリオットの部下に予定を聞き、帰宅時間になったら正門で只管待ち続ける。そして姿を現したら満面の笑みでお出迎えして惜しみなく労いの言葉を掛けるのが常になっていた。自分達がどんなに望んでもパロマがそんな態度で接してくれたりなんかしないのに、その栄誉をまるでゴミみたいに扱うエリオット。引き金を引く事は無いが、パロマに銃口を向けたのは一度や二度じゃない。
その度に瞳一杯に涙を浮かべるパロマが・・・・
いつも隠れて斧を構えている自分達がいる。パロマさえ願ってくれたら、若しくは向こうが引き金を引いてくれたら、いつでも仕留める準備は出来ているのに。
それが、仲間だろうと、上司だろうと、
―――そんな事は大した事じゃない。
ダムがまだ萎れちるパロマの背中にそっと近づく。
「ほらぁ・・・もう駄目だって言っただろ〜?」
「うぅっ・・・ひっくぅ」
「パロマ、もう諦めろよ。馬鹿ウサギのヤツ、許す気なんて無いんだよ。お前が傷ついて終わりなんだって。」二人がパロマを挟んでしゃがみ込む。下に向いた顔は表情が分からなかったが、ポタポタと滴が落ちている所を見ると、今回は涙を堪え切らなかったみたいだ。


prev next

332(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -