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パロマは単純に感動した。
このお屋敷で出されるデザート類はどれもこの世の物とは思えない美味しさだと常々思っていたのに、それを編み出す人物の息子が今、目の前にいるのだから。
「だからさ。パロマはキッチンに入んなくてもいい位、お金持ちのお家の子なんでしょ?それなのに、なんでこんな事やってるの?」
パロマの手がふと止まった。子供は時に残酷に核心を突いてくる。パロマは過去の記憶が押し寄せてくるのを無視して、少年にニコリとほほ笑んだ。
「どうしても私の手料理を食べさせたい人がいるんです。最初は一人だったのですが二人に増えたので、習得するまでは絶対に諦めません。ほら、敵を仕留めるにはまずは胃袋からって言うじゃありませんか。」
「えっナニナニ?毒入りスープとか飲ませて倒したいの??」
「そうじゃありませんよ〜。ああ、言葉が悪かったですね。言い方も『敵』じゃ無かったかも。」
「僕にも敵がいるよっ!隣で飼ってるわんこ!いっつもボクの事吠えてくんだ!」
「それじゃあ、今より強くならないとですね。動物ってジィッと目を見詰められると、自分の方が弱いのかなって小さくなったりするんですよ?・・・・あ、今度これ使ってみよっかな。」
「パロマもわんこが苦手だったりするの?ボク、噛みつきそうな顔でグルグル唸られると怖くて怖くて。」
パロマは一瞬、脳裏に『怖い顔をして唸っている人物』が浮かんで、笑顔が引き攣った。
「わんこではないのですが・・・一度噛みついてきたらそれから全然懐いてくれなくなっちゃって。・・・・・でも、時として、女はやらなければならない時があるんです。」
「ふぅ〜ん。パロマの中身は男の子みたいだね。カッコいいや。」
「えっ?そうですか?・・・うふふふ。」
二人してニッコリ笑い合いながら、ジャガイモ剥きを再開する。ポンポン弾む様に飛ぶ会話も、脈絡のない話も、精神年齢のせいか年の差を感じさせない位違和感が無かった。
二人の目の前にあるボールが剥き終わった野菜で山盛りになった頃、
「そろそろ時間帯が変わりそうですよね。私、もう行かないと。」
パロマがまな板や包丁を片付け出し、サッと立ち上がった。
まだ皮むき途中の少年がその姿を見上げる。
「練習に行くの?」
「ん〜・・・練習に行く前にちょっと寄り道をして行こうかなって。」
「止めておきなよ。」
少年が間髪開けずに言い返した。
パロマはそれに気付かぬフリをして、テキパキと片付けを続ける。
「パロマぁ〜、みんな心配しているんだよ?怖くないの?ボクだったら絶対に行かない。―――ってぇ!」
パロマが少年の頭を指でピィンと弾いた。
「大人の事情に口を挟まない。これ、シェフの誰かに渡してもらえますか?私は料理長に一言お礼を言って行きますね。」
ドサッと少年の手にボールを渡すと、パロマは踵を返して厨房の中へと戻っていった。
「早く諦めれば良いのに・・・」
少年の小さな呟きは、もうその場にはいないパロマには届かなかった。


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bkm


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