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「きゃっ!ご、ごめんなさい!!もしか して焦がしちゃったかも」
「・・・・もしかしてなくても、焦げているよなぁ。」
でっぷりとしたお腹を揺らした料理長が、パロマに任せていたスープ鍋のレードルを持ち上げる。
鍋の中身は癖の無いサラリとしたホワイトクリームのスープに仕上がっている筈なのに、レードルで持ち上げたスープはあろうことか深いキャラメル色でレードルにしかとくっつき、一滴も垂れてこない。
「何かを入れて誤魔化してみましょうか。これなんかどうでしょう、オ、オイスターソース??」
「・・・・・・・・・・・・・・」
いかにも料理人らしいにっこり笑顔が似合いそうな料理長の顔が、若干イラッと歪む。
雇い主の天の一声があったので、二つ返事でパロマを引き取る事を承諾してしまったのだが・・・。
「きゃああっ!!エビがっ!エビが生きていますうう!!!ぎゃっ跳ねた!やだっ逃げちゃう。だっっ誰か・・・・!!」



―――生きてちゃ、悪いのか・・・



エビ一匹威勢が良いだけで、周りのコックを巻き込んみ調理台はちょっとした騒ぎになった。
料理長は痛い頭を抱え込んだ。
ブラッドの許可が下りると、パロマは空き時間が出来れば足しげく厨房に通っていた。
料理素人の問題児。
初っぱなからトラブル続きで、エビで騒いでいる位些細な事だと思えるようになってしまった。
簡単に了解したのを今は深く、深 く後悔している。ここまで料理に無知な人間が存在していたとは。
野菜を切らせれば、一口大しか残らず、
料理器具や、調味料の知識も一切なく、
邪魔なので、スープをひたすらかき混ぜさせたら、それさえも上手にこなせない。
これでは、料理補助どころか、初心者のお料理レッスンだ。
「ボスの頼みだから聞き入れたが、一般採用だったらすぐ首だぞ。上が上だけに、こいつは下手に叱れないしなぁ〜・・・はぁぁ、困ったぞ〜、厄介なお荷物背負わせられちまった。」
大きな鋏と格闘していたパロマはついに生存競争に勝利したのか、両手で持ち上げて周りのコックから賞賛の拍手を貰っていた。お子様扱いを受けているのに気付いていないのか。
料理長はこの先が思いやられて深くため息を吐いた。



「パロマ〜。皮を剥く時はこれを使うと良いよ?ピーラーっていうんだ。こうやって持ってね・・・そうっ、最初はゆっくりだよ。」
結局厨房内をたらい回しにされたパロマは、裏に回され、一番下っ端の小さな男の子と一緒に皮むきからスタートすることになった。
「自分の指に気を付けてね。――――ほらっこんなに大っきく野菜が残ったでしょー?」
笑顔で教えてくれる少年に、パロマは自分がいたたまれなくって肩身を狭くするばかりだd。
「本当にもう・・・私って駄目ですね。みなさんにご迷惑ばかりお掛けして・・・。」
パロマが一つ剥き終わる頃には、少年の前には剥き終わったジャガイモがコロコロと転がっていた。
「んーー?始めは誰だってそうだよ〜。ボクだって父さんにたっくさん叱られてたし。あ、父さんってここのデザート担当なんだよ。眼鏡掛けててヒョロッとした。」
「分かります分かります!あの美味しいケーキを作って下さっている方がお父様だったんですね。」


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bkm


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