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「僅かでも自由な時を得られるのなら、役作りに充てるのが今のお前に最も有効的な活用法だろう。それを突として何を目論んでいる。」
ブラッドがそう言いだすのも尤もだ。パロマだって、プロの役者達に混じって学べる場を無駄にはしたくはない。しかし・・・
「もちろん舞台のお稽古は手を抜きません。でも・・・思い出したんです。引っ越しをする前、ハートの国にいた時、私は時計塔に住むユリウスさんに大変お世話になったんです。あの時はいつかお礼が出来たら良いなって安易に考えていたんですが・・・。」
話しているとついつい、気持ちが記憶の中の時計塔へと奪われる。フっと反らしていた視線をまた二人に戻すと、睨みつける様な険しい表情に変わっている気がするのだが、気のせいだろうか。パロマは一瞬呆けてしまったが、会話の途中だったのでまた口を動かした。
「それでですね?塔に住まわせてもらっていた時、お世話になっているお礼に食事の支度を任せて頂いていたのですが、大した料理も作れなくって。本当にあの時は散々でした。だから、今度会う機会があったら、それまでに腕を磨いて美味しい料理でお礼が出来たらと思いまして。・・・ダメ、ですか?」
上目使いで、ブラッドを見上げると、
――――こ・・・・怖っ!
骨の髄まで凍りつく、冷めた眼差しで見られていた。
何か気に障る事を言っただろうか。気のせいではなく、明らかにブラッドの機嫌がすこぶる悪い。ピクリとも動かない身体から、怒りのオーラがユラユラと立ち上っている。
何か、何でも良いから、何か言わなければと思い、ヒュウっと息を吸い込むが、



「駄目だ。」



次に言葉を発したのは、自分でも無ければブラッドでも無く、



「エリオットさん・・・」


無表情でパロマを見降ろしているエリオットだった。
その顔を見て、パロマは吸い込んだ息をゴクッと飲み込んだ。
いつものエリオットでは無い。
怒っていたり、呆れていたり、そんな表情は見慣れてしまっていて、ちょっと睨まれた位ではへこたれなくなってきたパロマだ。彼の叱りの言葉は愛情表現の裏返しだと思っていたのだが、今回は様子が違う。
変化の無い顔は、ある意味怒ってはいなそうなのに、
「・・・で、でも、あのっ」
「うっっせぇ!!」
エリオットの怒声が廊下の壁中に反響した。


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