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屋敷に入ると、探していた人物はすぐに見付かった。


「エリオットさーん!」


引っ越し後の厄介事に奔走させられているエリオットは、屋敷にいる時間帯がまちまちなので、滅多に会う機会がない。
これはチャンスとばかりに、階段に片足をかけているエリオットまで急いで近づいた。すると、
「あっ、ボスもいらっしゃったんですね。丁度良かったです。お仕事の事で一つお願いがあるのですが。」
階段の壁で隠れて見えなかったが、2、3段上がった位置にブラッドもいた。書類を手にしているので、仕事の話をしながら上階に向かおうとしていた所か。エリオットが眉を顰めてパロマに振り返った。
「何だよ。こっちは急いでんだから、さっさと言え。」
そう言いながらも階段からは足を下ろし、数枚捲ったままの書類は一度元に直してパロマの話を聞く体勢になってくれる。エリオットは基本的に部下には優しい男だ。
さっき思い付いた名案を早く話したくて浮足立つパロマは、頬を染めながら早口で喋り出した。
「お仕事の合間で良いので、厨房のお手伝いもさせて頂けないでしょうか。他のお仕事も絶対に手を抜きませんので。どうか、お願いします。」
「厨房??」
眉を顰めたエリオットが呆けた声を出した。
「お前、料理出来んのかよ。」
「いえ・・・それは、その・・・」
二人のジッと見詰める視線が痛すぎる。これは絶対に出来ないと踏んだ冷やかしの眼差しだ。
しかし、ここで怯んではせっかくの思い付きが台無しになる。
「な、何事も学ばなければ身に付きませんよね?行く行くは一流シェフの豪華な料理を私一人で作れるようになるかもしれませんよ?」
「無駄骨じゃねぇの〜?俺なんか誰にも教わんなくても、こん位ちっちぇえ頃から銃の扱いには慣れてたぜ?」
「・・・う、ぅ〜ん、貴方の物差しは・・・私のとはちょっと、違う、様な。」
エリオットの『こん位』と言った時の両手の幅を見て、パロマは素直に恐れ戦いた。それでは生まれたての新生児だ。
直属の上司の許可が必要かと思いエリオットにお願いをしたのだが、彼から柔軟な答えが得られないのでより権限の高いブラッドへと視線を流す。
「ダメ・・・でしょうか?」
「いや。それより、今のお前に空き時間等あったか。」
ブラッドの方が幾分か具体的な話に繋がった。パロマはその問いに対する答えは既に準備していたので、意気揚々と口を開く。
「はい大丈夫です。昼の時間帯と夜の時間帯は埋まっているのですが、私の休息時間を少し削るのと、夕方の時間帯の『エリオットさんのお手伝い』枠がまるまる」
「おいおい?ちょっと待て。俺の補助なんざテメェにとっちゃあ空き時間扱いか?!」
「いっいいいいいいえいえっっっ!滅相もありません!近頃のエリオットさんは外回りのお仕事がお忙しそうで、私にまで気を配って頂くのが申し訳なくって!!」
「チッ!本心だろうなあ?」と舌打ちするエリオットが獰猛な顔でパロマを威嚇する。それに対してパロマも「も、もちろんです」とオドオドしながらも言い返した。


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