07
この役を与えられた時、ブラッドとエリオットの会話をワゴンの下で聞いていた。
その時でさえ人身売買や怪しい組織の話をしていた気がする。自分の常識を遥かに上回る会話であったのと、役の練習に熱が入り出したのもあって、すぐに気にもかけなくなっていたのだが。
パロマの顔が不安に曇った。
(やっぱり、危険な街なのかしら。そんな場所でオペラなんて公演して、大丈夫なのかな。私は代役だから表には出ないけど、舞台に立つみんなは顔を出す訳だし・・・何か問題が起きないと良いけど。)
舞台の花形役者達を一人ずつ思い描いては、悪い事態を予期して不安を募らせる。
オールドソーンズを皮切りに公演の場を徐々に広げて、行く行くは全世界にまで我が名を轟かせるとクリスティーヌが毎度毎度声を張り上げていた。
ハートの城の女王に謁見も出来るかもしれないと、自分の衣装でさえ新調している位なのに、初回から問題を起こしては舞台に悪評が立ってしまう。
(でも・・・公演のスポンサーがこのお屋敷だって大々的にうたっているのだし、公の場で騒ぎを起こす人なんていないわよね。)
思案気に部屋をうろつくパロマの後ろでドアをノックする音が響いた。
「?はいはぁ〜い、今」
「いったあ〜〜っっ!!!」
開けます、と言い切る前にドアが勢いよく開いた。ドアノブを握る仕草で固まったままのパロマの手をギュッと握り締めたのは、顔なじみの同僚だった。
「探したのよおパロマ!!もう練習は終わったんでしょ?次は仕事っ仕事!いっぱい溜まっていているんだからあ〜!」
握られた手は力がこもっていて、うんと言わない限り離されそうにない。まるで「逃がさないぞ」とでも言うかの如く、強く握り締める彼女は、グイグイとパロマを廊下へと引っ張って行った。
「あっあの、仕事の前に、お客様が眠って・・・あの?!聞いています?!?!」
いいからいいから〜、と彼女はパロマの言い分も聞かず、さらに力を強めた。結局パロマは眠ったピアスを部屋に残して、仕事へと駆り出されてしまったのだった。


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