05
「あ、はい。時計集めって夢があって素敵な職業だと思いますよ?」
「ええっホントに〜?!」と瞳をキラキラ輝かせて、ピアスはパロマの両手を取ってブンブンと振った。
自分の職業が褒められて、テンションが一気に上がった様だ。そんな些細な事で喜んでくれるなら、パロマだって嬉しい。パロマはニコニコとピアスのされるがままでいた。
「じゃあさ、じゃあさっ!今まで誰にも言ったこと無かったんだけど、俺って本当は落ちている時計を拾うより、動いている時計を集めるのが好きなんだ!こうグッて手を入れて引っ張り出してさ。手の中で動きが少しず〜つ弱まるのが堪らないんだよねっ。これってどう思う?どう思う??」
ピアスが手を前に出して何かを握る真似をして、スナップを利かせてから今度は手前に寄せた。
ニッコリ笑顔で相槌を打ってはいるが、パロマにはその動きの意味が全く分からない。
何にそんなに興奮しているのか、サッパリ分からないパロマだったが、蓼食う虫も好き好き、人の好みは所詮他人には理解できない物と話を合わせる事にした。
「そう・・・ですね。今にも止まりそうで止まらない時計って・・・ちょっとイラッとしそうな気もしますが、う〜ん・・・ずっと見ていたら癒される、かも?」
自分だったらすぐに電池を変える、なんて冷静に思いながらも、大はしゃぎのピアスの前ではそうハッキリとは伝えられずに言葉を濁す。
これが大きな誤解を招くとも、知らずに。
「うへぇっキミも言うねー!そんな風に言う子、初めて会ったよ。俺だってちょっとバッチぃなって思う時あるのに。」
「汚いですか?まあ、誰かの物だったと考えたら、そうかもしれませんね。でも、アンティークって素敵じゃありませんか。使い道はまだまだありますし。」
「使い道?!」
元気に喋っていたピアスが、急に怯えた仕草でブルリと震えた。
「なっ何かに使っちゃうの?まだ、動いているのに?!こ、怖い事考えるんだね。」
真の恐怖を体感しているみたいに真っ青に青ざめるピアスをパロマは不思議そうに眺める。
「そうですか?普通の事だと思いますけど。」
実は二人の間には、眼には見えない「生まれ育った世界の常識」という厚い壁が立ちはだかっていた。
全く違ったイメージを各々が思い描いているのに、会話だけはトントン拍子で進んでいる。
そうとも知らずに、お互いが「ちょっと普通とはズレた人」としてお互いを認識しあう。
「へ・・・へぇ〜」とピアスが心なしかパロマから距離を取った。
こんなオカルト大好きっ子が存在していたとは。
この手の話で自分の右に出る人物はそうそういない。大嫌いな猫でさえ、仕事の話をし出したら尻尾を巻いて逃げ出すのに。(後でひどく仕返しをされるが)
これ以上、このぶっ飛んだ人間に時計の使い道とやらを延々語られたら、想像が頭にこびりついて、空腹になっても食事が喉を通らくなってしまう。
ピアスは何か別の話題が落っこちていないか、必死で床を見渡した。その姿を、チキガイと認定されたパロマが優しく見守る。
「あっああ!そそ、そういえばっ、キミはあそこで何をやってたの?それを聞こうと思って声かけたんだった!」
その後のパロマの絶叫を思い出して、ピアスが少しだけ身震いさせた。あの叫び声も、今考えたら普通では無かった。
「あの時は裏庭を走ろうとして―――っああ!!」
パロマが急いで庭に続く窓に駆け寄ったが、時は大分過ぎていて、既に昼の時間帯が訪れていた。
「ああ〜・・・叱られちゃうけど、今回は仕方が無かったかな・・・」
目の前にお腹を空かせた子供がいたら、放ってはおけない。元いた世界で名付け親の神父の元でそう育ってきた。
どうせ怒られるなら、この時間を有意義に過ごす方が良い。
「用は無くなったの?」
キョトンとしたピアスに、笑顔を見せる。
「はい。大丈夫です。私があそこにいた理由は―――」
今度はパロマが今までの生い立ちを話す番だった。



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bkm


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