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「でもっ、パロマがいなけりゃ舞台は成り立ちませんよ?!正式採用したアヴェルラったってスポンサーの立て前ってだけのお飾りで、演技指導すらしていないじゃないですか!今から育てても間に合いませんよ。劇団のみんなだって、主役がパロマだから盛り上がっているのに・・・」
弟子が戸惑うのも無理は無かった。
クリスティーヌの方針とスポンサーの要望が余りにかけ離れてたいから。大広間からこっそり聞き耳を立てていた仲間達の間で不穏などよめきが起きた位だ。それなのに、
「バレなきゃ、良いのよ。」
と、クリスティーヌは不敵に笑った。
シャンと延びた背筋は、少し前まで惨めに床を這い蹲っていたのと同一人物だとは到底思えない。
「何よ、偉そうさっ。金があるからって、何だってのよ!舞台の知識も無いくせにしゃしゃり出てきちゃって、はぁ〜煙ったいったらありゃしないわ!!」
「だだ団長っここはお金だけの場所じゃあ」
「黙らっしゃい!」
左右を気にする常識人の弟子に向かってクリスティーヌは金切り声で唾を飛ばす。
「結局教養が無いから、パロマの希少性が分かんないのよ。あんな子何処に埋もれていたのかしらっ。それを見付けたのが、何であんなカタブツな訳?!しかもまた埋めようとしてんのよ?!?!何様よね!」
「怖い怖いマフィアのお頭様です!!ホントにっ団長っこれ以上はっっ」
弟子がクリスティーヌの袖をグイグイと引っ張って大広間内へと誘い入れようとする。扉さえ閉めてしまえば、そこは防音なので何を喋っても誰も咎めない。がしかし、この長い廊下でこの暴言はさすがに不味い。それなのにクリスティーヌの興奮状態はまだまだ収まる気配は無かった。
「良いわよっフン!見てらっしゃうい!!こっちだってプロ根性ってのがあんのよ!何としてでもパロマを舞台に立たせてやるんだからっ。あんな金の卵をみすみす逃してなるものですかっ」
憎き相手を頭の中で思い描き、拾ってきたタクトをギリギリと撓らせた。
「うへえっ?!そ、そりゃ無理ですよっ!あんなにはっきり駄目だって言われていたじゃないですか!」
弟子の声が思わず上擦る。そしてすぐに廊下で大声を出してしまった自分の失態に気付き、ハッと左右を見渡すが人影すら見当たらなかったので、「中で話しましょ?お願いですからっ!」とクリスティーヌをせっついた。
「そんなの知ったこっちゃないわ!あの高飛車な鼻をへし折ってやるわよ絶対!!やだっちょっとお押さないでって、みんなあ!今からミーティングよおおお!!!」
クリスティーヌの良く通る声が大広間内に木霊し、室内が急にざわついた。


バタン



弟子がクリステイーヌを部屋の中へ押し込み扉を閉めると、寒々しい廊下は瞬く間に静寂に包まれた。


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