36
ピタリとクリスティーヌの額に銃口がくっ付いていた。ブラッドがちょっと引き金を引けば、自分の頭等一瞬で吹っ飛ぶ。クリスティーヌは所構わず濁声で叫んだ。
しかしそれさえもブラッドの機嫌の悪さを増長させただけで、
「ピーチクパーチクと、良く動く口だな。しかも不快極まりない。ここは仕方が無い、私の人選ミスを潔く認めすべてを無に帰すか。」
カチャリと音を立てるマシンガンの奥でブラッドの瞳が無機質に光る。
「もっもももももも、申し訳っございませんでした!いっ命だけはどうぞ何とぞ!!!」
銃口から逃れたい為か若しくは足腰に力が入らなくなってしまったのか、クリスティーヌが堪え切れずにブラッドの足元にひれ伏す。彼女にはこれより他の選択肢は残っていなかった。
「貴方様のご依頼は必ずや全う致しましょう!帰ってきたら、いえっ今すぐにでも劇団より除名させます!ひぇえぇ〜これ以上銃は向けないでぇぇ・・っ」
グチャグチャな表情で涙ながらに訴えるクリスティーヌに、ブラッドは蔑む眼差しを向ける。
「ッ!小汚しい下衆が。記憶力すら無いのか。只止めさせるのは誰だって出来る。お前の仕事はあの女が二度と夢等見ない位徹底的にあいつの士気を蹴散らす事。それが・お前の・ここに居る―――理由だ。」
「そんな簡単な任務でさえこなせないとは」とブラッドが呟き、怒りに任せてクリスティーヌの持ったタクトに向かって蹴りを入れた。
鋭い音と共に、クリスティーヌ愛用のタクトが遠く彼方へ飛ばされる。振動で痺れる手をさらに震わせながら、クリスティーヌはそのタクトの行方を目で追うばかりだ。
「お前の替えはいくらだっている。私の機嫌次第でどうとでも出来る事を、忘れるなよ?」
「・・・・・・はっ、はひぃ・・・・」
まだ立ち上がれないクリスティーヌを一瞥してから、ブラッドは踵を返して廊下から去って行った。
ブラッドの姿が見えなくなってから暫く経っても、クリスティーヌはその場から動けずにいた。
両扉の中央が少しだけ開かれて、そこからクリスティーヌの一番弟子がおっかなびっくり顔を出した。キョロキョロと見渡しブラッドがいないのを目で確認すると廊下に出てきて、今度は腰を抜かしているクリスティーヌに驚き慌てて駆け寄った。
「だっ団長っ大丈夫ですか?!」
「見りゃ分かるでしょうよ!駄目に決まってるじゃない。あ〜っこ、腰が・・・いたたたっ」
仲間の存在で、ガチガチに固まったままだったクリスティーヌもやっと呼吸が楽になり、よろよろと立ち上がる。
一気に老けたクリスティーヌに弟子は心配そうな声を発した。
「こんなんじゃアヴェルラは・・・この舞台はもう・・・おじゃんですね・・・・すみません。許しも得ずに少し扉を開けて話を聞いちゃったんで。あと僕の他にも数名・・・」
「いつものメンバーなんでしょ?それなら構わないわ。だけど他言無用よ、良いわね?―――舞台はやるに決まっているじゃない。」
「えっ?!」
立ち直ったクリスティーヌの発言に、弟子が過剰反応する。


prev next

312(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -