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(パロマの事じゃない!!!)

クリスティーヌはそんなに遠くない過去に想いをはぜた。
自分の理想を追い求め過ぎてついつい稽古に厳しくなり、最近人離れが激しかったクリスティーヌの元にマフィアが訪れた時は、ついに自分も誰かの恨みを買って息絶える時が来たのかと覚悟をしたものだ。
大勢の強面達に囲まれて連れ出された場所で、初めてブラッドと対面した。
死期を悟ったクリスティーヌに対して、深く帽子を被ったブラッドは皮肉な笑みを浮かべていた。
『今度帽子屋屋敷が全面バックアップの元舞台をやる。そこで一つ、お前に仕事をやろう。』
こんな巨大なスポンサーが付いたら、どんな大がかりな舞台だって夢じゃない。マフィアという黒々しい組織は怖いが、役者であれ、舞台監督であれ、何だってこなす気持ちで身を乗りあげたクリスティーヌに向かって、ブラッドが事も無げに言い放ったのは―――



『お前の仕事は、一人の女の幼稚な夢を木っ端微塵に砕く事だ。』



(ヤッダァァッ!!!マズいッマズいんじゃないの?!この状況!)
今、クリスティーヌの目の前にいるブラッドと、初めて対面した時のブラッドとが重なって見える。
同じ表情に見えてしかしどう考えても、今のブラッドの方が遥かに不機嫌だった。
「は・・・あは、あはははっ。い、いえ・・あのっ・・・それが、その・・・っ」
「思い出したか?」
ブラッドの冷たい言葉が胸に刺さる。
紹介されたパロマは、ブラッドがどこから見付けてきたかは分からないが、実はかなりな掘り出し物だった。容姿、技量、従順な性格、そのすべてがクリスティーヌの基準を上回り、どんなに厳しく指導しても喰らい付いてくる我慢強さも好ましく、手放すには惜しい存在だったのだ。
自分の望む通りに素直に成長していくパロマ。
表面上主役は別の役者を立ててはいるが、クリスティーヌはいつしかこの舞台のアリアはパロマしかいないと、自然に受け止める様になっていた。
(それを、何も、今更っ)
クリスティーヌは、当時何の駆け引きもなく軽く二つ返事で了承した自分を恨めしく思った。しかし、今はそれを悔やんでいる場合では無い。
事実、ブラッドの依頼を裏切り、パロマの役者生命を断つ何処ろか逆に育てて意欲を煽っている。そして、練習を積み上げた今や、彼女無くして舞台は成り立たないと断言できる。
この現状を維持しつつ、何とかこの場を納めなければ・・・。
「貴方様からのご依頼は忘れてはおりません。もちろんそれに関しては彼女にも重くプレッシャーを与えているつもりではございますが・・・っ」
クリスティーヌが手振り身振りを添えて必死に弁解をする。いつもパロマに厳しく接していたのが功を奏した。見ようによっては虐待と取ってくれるかもしれない。
「なにせ、彼女がそれを軽々と乗り越えてしまうのです。方々手を尽くしてはいるのですが、苛め足りないのでしょうかね?オホホ・・・ギヤアアっ!!!!」


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bkm


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