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廊下に出ろとブラッドに首で促され、クリスティーヌは戸惑いながらもそれに従った。クリスティーヌが扉をパタンと締めれば、防音効果が施してある広間からは少しも音は洩れて来ない。しんと静まり返る冷たい廊下でブラッドと二人きりにさせられて、クリスティーヌは徐々に焦りを覚え始めた。
「お陰さまで、舞台稽古は順調に進んでおります、ブラッド様。アクの強い役者揃いですが、それがまた定番化しているオペラに新しい風を呼び起こしていると申しますか。その意外性に長くこの生業をしている私でも興奮させられる次第でございます。」
「・・・・・・それで?」
まさか、疑問形で返されるとは思ってもいなかった。笑みも浮かべていないブラッドは自分から何を引き出したいのか、クリスティーヌは返答に詰まった。
「え?ぇええ、はい。そうですね・・・はっ!舞台衣装の件でございましょうか!!天下の帽子屋屋敷様がバックにお控えなさっているのに、草臥れた衣装では箔が付かないと勝手に判断致しまして・・・っ。その節は大変申し訳ございませんでした。」
何と、クリスティーヌはスポンサーの許可も求めず普段では頼んだ事も無い豪華絢爛な衣装を注文しようとしていた。こっそりやったつもりだったがもうバレてしまったのかと、額から脂汗がにじみ出る。
「そんな事はどうだっていい。他にもあるだろう?」
「・・・・は、はぁ・・・・」
確実に咎められるであろう不正行為が簡単に流されたのも信じられないが、それ以上の報告事項があっただろうか。
「配役に何かご不満でもございましたでしょうか。御贔屓にされている役者がいらしたらどうぞ仰って下されば、如何様にも配慮致しますが。」
クリスティーヌは役者達を見せようと両開きの扉に手を伸ばし、下世話な笑みを浮かべながら相手の顔を仰ぎ見ると、
「ひぃぃっ」
思わず悲鳴が出た。
その位、ブラッドの表情に動きが無く、瞳ばかりが冷たく光っていたものだから。
「お前・・・まさか、本気で分かっていないのか。この、私が、舞台の進行度合いを知りたいが為に、ここまで足を運んだと―――」
「!!!」
急にクリスティーヌの脳天に閃きの稲光が走った。ブラッドの言わんとする事が、パッと脳裏に浮かんだのだ。


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bkm


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