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舞台の練習は大詰めを迎え配役すべてが出揃い、練習場所を別棟の大広間に移し替え、通し稽古が行われる段階へと突入した。
個性派揃いの俳優達はさすがクリスティーヌの選考と言った所か。
矜持の高い面々は表面的には仲の良い雰囲気を作り、内心ではいかに 舞台で自分をアピール出来るかに全神経を注いでいた。そして誰もが、巨大なスポンサーと敷居の高い練習会場に、しり込みをしていた。
その中で、変わらず低姿勢でペコペコと謝り通しの人物が一人。
「スト―――ップ!!何でそんなテンポになっちゃうのよおお!全っ部台無し。丸潰れよ。それに歌っている最中に息上がってどうすんの。あんた基礎体力がなってないのよね。裏庭10周!」
「はっ・・・はいぃぃっっ」
歌い終わってヘロヘロの状態のままクルッと向きを変えたパロマに、下っ端の劇団員が同情のエールを送ってくれる。
「あの先生は悪魔です。」
こっそり捨て台詞を吐いたつもりが、悪口程良く聞こえるもので、
「裏庭20周よ!!このトンマ!!!」
走る量を二倍に増やされ、パロマは真っ青に青ざめながら部屋から飛び出した。
廊下をパタパタと走っていると、廊下の先にブラッドの姿を見つけたので、
「また叱られちゃいました!」
「急いで走ってきますっ」と口早に伝えて、その横を通り過ぎて行った。
ブラッドはチラリとパロマに視線を寄こしてから、練習場にと開け渡した大広間へと向かう。
大きく開かれた両開きの扉の前には先程まで罵声を飛ばしていたクリスティーヌが立っていた。ブラッドが姿を現した事にいち早く気付き、慌てて身なりを整え出した。そして営業スマイルを顔全体に張り付ける。
「こっ!これはこれはっ、ブラッド=デュプレ様直々にお越しいただくなんて、光栄でございます。ホラあ!みんな練習止め!!一列に揃ってブラッド様に挨拶をおし!」
クリスティーヌがパンパンと手を叩くと、全員が練習を止めて急いで整列をし出した。
「もっと素早く行動するう!!」と大きく叫んで舌打ちをしたクリスティーヌはクルリと向きをブラッド側へと変えて、今度はにこやか〜にスリスリと両手を擦り合わせた。
「この度は貴方様のご厚意により、全体稽古にと別邸の大広間まで無償でお貸し頂き、何とお礼を申し上げれば良いのやら。ご期待下さい。私の芸歴に賭けて必ずや貴方様を拍手大喝采のフィナーレの渦中へと導いてみせましょう。」
「・・・」
ブラッドからは労いの言葉どころか、愛想一つ返ってこない。クリスティーの両手の擦れる音だけが嫌に虚しく響いた。
「ゴ、コホン・・・・え〜、ところで〜・・・・この度はどんなご用件でございましょうか。練習風景を覗いていかれますか?」
全員が出揃った所でブラッドに向けて一礼をしようとした所、
ブラッドがスッと掌を向けて、それを止めた。
「おざなりな挨拶はいいから練習を続けろ。お前達に用は無い。」
では何のために訪れたのか。役者達の中で動揺が走ったがスポンサーからのダイレクトな命令なので、スゴスゴと元の位置に戻って行った。
「え?」という顔で突っ立ったままのクリスティーヌの方へ、ブラッドは向きを変える。


「用があるのは―――お前だけだ。」


クリスティーヌの作り笑いがヒクリと強張った。



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bkm


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