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上目使いでブラッドのご機嫌を伺ってみても、何だが優しい表情をしているみたいだから、怒っている訳ではなさそうなのだが。
「ど、・・・どうしたんですか・・・?」
「いや?よくここまでスレずに成長したものだと思ってな。」
何なのだ。
理由を聞いても、パロマには全く意味が分からなかった。
ガチンと固まってしまったパロマを微笑ましく眺めながら、グシャグシャになってしまった髪を梳くのを手伝ってやる。
アリスから聞いたパロマの生い立ちは、ブラッドにとってすべて初耳だった。
仕草や態度からしても裕福な出だろうとは察してはいたが、まさかそんな複雑な環境で生きてきたとは。
不幸を背負って生きる者はこの世界にだって腐る程いるが、パロマからは自分を卑下する歪んだ態度は一切出てはこない。だから、元いた世界での生活等気にした事も無かったのだが―――
(言わないだけで、色々と抱え込んではいたのだな。)
ブラッドは髪を梳く振りをして、気付かれない程度にそおっと頭を撫でる。
小首を傾げたままのパロマが可笑しかったから、そろそろ別の話題を振ってやった。
「部下共が、数時間前にお前がニヤニヤしながら仕事をしていたと気味悪がっていたが、それは一体何だったんだ。」
「あっそれはっ」
突如話を切り出されて、パロマは確かにずっと笑いをかみ殺していたのを思い出す。そしてまたその理由までも思い出してしまって、顔が緩み出した。
「ちょっと面白い事があったんです。ボスも聞きたいですか?」
聞きたく無いと言っても、喋り出しそうな程パロマは笑顔になった。ブラッドもかぶりを振って先を促す。
「実はですね、クリスティーヌ先生の秘密を知ってしまったんです。先生は素晴らしいカウンターテノールの声音の持ち主なんですが、本当はとっても男らしいバス寄りのバリトンのお声が地だったんです。ずっとそれを隠していたんですよ?ちょっとした所で気付いて彼を問い詰めてみたら、『オペラ座の怪人』もクリスティーヌ役じゃなくて、ファントム役だったんですよ〜。『ファントム』が自分の事を『クリスティーヌ』って呼ばせるだなんて・・・・私、堪え切れなくなっちゃって―――」
お陰で頭に血が上った先生に裏庭を50周させられました、と言いつつまだ肩を揺らすパロマは、自分がブラッドの膝の上にいる事をすっかり忘れて、夢中になって話して聞かせる。
別に興味を引かれる話題ではないが、ブラッドも笑顔のパロマに引き込まれる様に黙って話を聞いていた。
傍から見ると、初々しい恋人同士の優しい雰囲気に包まれた二人は、薄暗い部屋の中で誰にも邪魔されず寄り添い合う。




珍しく茶々も入れずに微笑んでいるブラッドと、彼にも笑って欲しくて一生懸命伝えるパロマの間で、夜の時間帯は静かに更けて行った。





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