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いつものアリスならすぐにチケットと手に取り、喜んで見に行くと言ってくれそうなのに、
「・・・?」
なかなかテーブルに手を伸ばさないアリス。ジィッとチケットを見詰めているだけの姿を少し不思議に思っていると、アリスはやっとチケットを手にしてそれを指先でそうっとなぞった。
「私・・・行けるかしら・・・。ペーターと一緒に、いつまでいられるのかしら・・・。」
「えっ?」
アリスは思わず口に出していたという事なのか、パロマの戸惑った声が聞こえて、ハッと我に帰り、慌てて態度を誤魔化した。
「そ、そうね。お城のみんなを誘ってみようかしら。ペーターとビバルディと。あともしかしたら王様も行くって言うかも。」
「ねぇねぇ、そう言えばね?王様ったら」とその先はお城であった奇想天外な出来事をアリスは面白可笑しく話して聞かせた。
アリスの態度がおかしかったのはほんの一瞬だったので、パロマもその事はすぐに頭から外れて、アリスの話に相槌を打つ。
だから、アリスが城の面子の名を上げていた時敢えて一人の重役の名を避けた事に、パロマは全く気付かなかった。




少ない時間だったが存分にお喋りを楽しみアリスが帰り仕度を始めると、パロマは急にセカセカと動き出した。
お茶菓子を新しくたり、紅茶も新たに淹れ直したり。
極めつけはアリスが興味を持ちそうなとっておきの話題を今更ながらに持ち出した。
「パロマ―――。」
帰したくないオーラがパロマの全身から発せられている。
しかし、アリスも元いた世界の頃からこんな事には慣れっこなので、非情にもさっさと立ち上がり、さらりと別れの挨拶を口にした。
が、それでもしつこく粘るパロマの頭に空手チョップをお見舞いして、頭から煙を立ち上らせながら痛がるパロマを引き連れて、帽子屋屋敷の正面の門まで強制的に送らせた。
門より先は、エリオットがハートの城の領域まで送る手筈になっていた。既に正門で待ち構えているエリオットを発見して、アリスを彼に委ねる。
「それではアリス、また会えるのを楽しみにしていますね。」
パロマは少し寂しかったが、笑顔で手を振った。すると、その子供じみた仕草をアリスも真似して手を振り返してくれた。
別れ際になるとつれなくなるアリスだが、最後はこうやってパロマを甘やかしてくれる、パロマにとってやっぱり優しいお姉さんだった。
「すぐ会えるわよ。練習頑張ってね。」
アリスはそう言って、先に行くエリオットに続いて森へと向かう道を歩いて行った。
どんどん、小さくなっていく姿を、いつまでも見守るパロマ。
アリスの姿は小さな小さな点にまでなってもその場から動かなかった。
「すぐ、会えますよね。」
もう聞こえないだろう言葉を、パロマはか細く呟いた。






しかし、アリスとパロマが再会を果たすのは、すぐ先でもオペラハウスでもなく、とんでもない窮地だと言う事を、まだ二人は知らない。







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