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二人は手に手を取って興奮した。特にアリスは初めて聞いたので衝撃が凄かった。
「ウソでしょ?!この世界でオペラをやるの?!」
「すごいですよねっ!アリスならこの興奮を分かってくれると思っていました〜!!」
「そうなのね。ホントにすごいわよっ」とアリスは両手を叩いて喜んでくれた。パロマもウンウンと満面の笑みだったが、
「舞台に上がるなんて、よくブラッドが許したわね。」
何気なく出て来たアリスの呟きの中に『ブラッド』と親しい間柄の呼び名が出てきて、ツキンと胸が少しだけ痛んだ。
先程のお茶会でも二人は寄り添って何か話し込んでいた。微笑みあう二人は誰も寄せつけない親密な雰囲気を纏い、パロマも何故だか距離を感じて近くに行けなかったのだ。
(何だろう、この胸の痛み・・・。アリスを取られたみたいで嫌だったのかな・・・)
せっかくアリスが会いに来てくれたのに、暗い気持ちになっていてはもったいない、とギュッと胸の上でこぶしを握り、パロマは自分の不可解な痛みを胸の中に沈める。
「その事なんですが、まだボスには申し訳なくて言えないでいるんですけど、私は舞台には上がれないんです。」
「え?どういうこと??」
アリスはパラパラと捲っていた台本から顔を上げた。
「私は控えで、私の役の正式なキャストはちゃんと別でいるんです。私はまだまだ経験不足ですし、プロの方々と肩を並べるには技量が足らないと、指導者に怒られっぱなしな状態です。ボスから台本を貰って、舞い上がっちゃって。だからすぐにアリスにも手紙を出してしまったんです。ビックリさせてしまってごめんなさい。」
「期待してくれているボスにはその事をなかなか伝えられなくて」とパロマは苦い笑みを浮かべる。
「・・・そうなのね。それは残念だわ。久し振りにパロマの歌が聞けると思ったのに。」
アリスはそうっと台本をテーブルに戻した。元に居た世界では、パロマのすべてはオペラを中心に回っていたと言っても過言ではない。さぞかし気落ちしているだろうと、パロマの肩を摩る。
「良いんです。こうやってまた歌える時が来るなんて思ってもみなかったので、それだけでもすごく嬉しくて。だから、私が出ていなくても、アリスにはオペラを見に来て欲しいんです。―――見に来て・・・くれますか?」
やはり用意周到に用意してあったオペラのチケット数枚をおずおずとテーブルに置く。
「無理をして一人で来なくても良いんです!仲の良いお城の方とかお誘いして気軽に来て頂けたら、それだけで。・・・・アリスがどうしてもって言うのなら、あの方がご一緒でも・・・我慢します。」
もちろん、その嫌々ながらで口にした人物は『ペーター』だろう。


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bkm


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