27
打算と裏工作に塗れたこの土地の領主が脳裏に浮かんで、アリスの顔が瞬時に醜く歪む。
「何ですかアリス?何かありましたか??」
「ん〜ん〜。良いのぉ。こっちの話〜。」
またしつこく脅されるのも嫌だ。アリスは黙秘する事に決めた。
「まだ引っ越しで安定していない時なのに、お呼び立てしてごめんなさい。ここまで来るのに、危ない目にはあいませんでしたか?」
アリスの前に紅茶のカップをそっと置く。中から柑橘系の紅茶香りと共にゆったりと白い湯気が立ち上った。自分用のカップもテーブルに置き、机から椅子を持ち出してパロマはそこに座った。
「ううん。何にも無かったわ。実を言うと、すぐ近くまでペーターが送ってくれたの。あの人重度の心配性なのよ。」
憎き恋敵の名が愛しのアリスの口から出てきて、パロマが分かり易く苦い表情になる。
「そんなの当たり前です。アリスに何かがあったら、私は絶っっ対にあの人を許しません。」
「私に何かあっても、ペーターのせいとは限らないじゃない。彼だって忙しい身なんだし。」
「い・い・え。アリスの側に居られるという事はそういう事です。あんな人、使い古してポイって捨てちゃえば良いんです。」
香りの良い紅茶をさも不味そうにズズと啜るパロマ。アリスは含み笑いを堪え切れなくなった。
「フッ・・ウフフフ。本当にあんた達って似た者同士よね〜。近親憎悪?口から出る言葉も相手を考えた時の表情も、全く同じなんだから。」
「止めてくださいっ!一緒にしないで下さい!そう見られていると思うとすごく嫌です。」
「そんな所までそっくりおんなじよ?」とアリスはケラケラと笑った。
アリスの笑顔が見られるのならば、天敵のペーターの話題だって良しとしよう。パロマも一緒になってアハハと笑った。
「でも・・・」
アリスはコトンとテーブルにカップを戻した。
「何だか最近、彼がすごく忙しそうなの。引っ越しでお城の中が大変だっていうのもあると思うのよ?でもそれだけじゃない気がして。お城の中の雰囲気も前とはどこか違っていて・・・」
ポツリと話出したアリスは、少しションボリしていた。パロマも話に同調して不安そうな表情をしてしまったのだろう、アリスはそれにすぐに気付き、無理矢理笑顔に戻した。
「変な話をして御免なさいね。多分・・・一過性な物だと思うわ。―――ほらっ、何だったかしら?パロマの方にも報告があったんじゃないの??」
「え?・・・あ、ああ、そうでしたっ」
アリスの挙動に目を奪われていたパロマは、話を振られてハッと思い出した。
「見て下さい。これ、何だと思います?」
いつでも見せられるようにと、テーブルの側に置いてあった台本をワクワクしながらアリスに差しだす。
「?・・・『小夜啼鳥の旋律』って・・・」
台本をパラパラと捲っていたアリスが顔を上げると、頬を紅潮させたパロマと瞳が合った。
「そうなんです!私、今舞台の練習をしている所なんです!!」
「ええええっ?!?!」


prev next

303(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -