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茶会が続行不可能になったのをこれ幸いに、パロマは非難と称してやっとアリスを自分の部屋へと誘った。
「どうぞ入って下さい。アリスはこの部屋に入るの初めてですよね。もう洗濯部屋では無いんですよ〜!」
ニコニコ顔のパロマは上機嫌で部屋の扉を開け、部屋の中にアリスを促す。
ハートの国に居た時もパロマは何度かアリスを招待していたが、宛がわれていた部屋が洗濯部屋だった為に、狭いし寒いしで申し訳ない気持ちで一杯だった。
と言うのも、最初は小さいながらもちゃんとした部屋を宛がわれていたのだ。ベッドもあれば書き物机もあった。しかし、その部屋でアリスをもてなすタイミングは完全に失ってしまった。
何故なら、ハートの城での騒動の後に屋敷へ連れ戻されてみたら、どう言う訳か部屋があった場所は廊下の壁が続いているのみで、扉があった跡形さえも無くなっていた。
工事で修復したというよりかは、存在自体が無かったかの様に。
やっとこの世界の仕組みに付いて分かってきたと思っていたパロマだったが、部屋が忽然と姿を消すという経験はさすがに初めてで、まだまだここには未知なる不思議が詰まっているのだと戦々恐々としたものだ。
そして、それから長いことタイル張りの冷たい部屋を使っていたが、クローバーの国に引っ越しとなった折に新しい部屋を与えられたのだ。
以前使っていた部屋よりも格段に大きく、両開きの大きな窓とベッドと机、そして新たに二人掛けのソファもあった。
この喜びをアリスにも分かってほしいので、パロマは少し興奮気味でアリスの歩みを急かす。
しかし、
「ねぇ、何で鍵が二つもある訳?」
アリスはドアを凝視していばかりで部屋の中には入ってはきていなかった。
それもパロマが使っていた一般的な鍵穴では無く、高性能高品質なタッチパネル式最新型の鍵の方だ。
「元々は金庫室だったの?随分厳重な扉ねぇ。ちょっと試してみたぁい。暗証番号は?」
「えっ?知らされていませんよ?鍵は使って無いんじゃないでしょうか。この部屋は作られたばかりですし、金庫室は別にありますから。」
「ふぅ〜ん・・・・・・・へ??」
見詰めあっている二人の中間で、扉に付いたオートロックの鍵の電源が青くピカピカと光っている。
パロマはそんな事よりも、尊敬するアリスが遊びに来てくれたという喜びで胸が一杯で、すぐにケロリと笑顔になった。
「そんな事どうだって良いじゃないですか〜。ささっ早く入って下さい。アリスの好きそうなお菓子を準備してあるんです。」
強引にアリスをソファに座らせて、嬉々として動き出すパロマ。その嬉しそうな後ろ姿を目で追って、
「そうよね。大事に保管されてんのはあんたって訳ね。逃げそうになったら閉じ込めておけるし、一石二鳥よね。」
ボソッと呟いた。


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bkm


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