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ブラッドがアリスを見ている。
ターコイズの瞳が、極寒の凍て付く湖を連想させた。
「じょ・・・冗談よ?約束は忘れてないわ。」
「そうか?それならば良かった。私も二度も『お願い』をするのは心苦しいからな。」
突如凍りついた場の雰囲気が、ブラッドが目を細めただけでまたすぐに元通りになる。
マフィアの本気は、心臓に悪い。
途中から息を止めてしまっていたから、急に呼吸が楽になってアリスはブラッドとは反対方向に顔を反らし、「ふぅぅ〜っ」と大きく息を吐いた。まだ心臓が高鳴っている。
ブラッドの言っているそれは、引っ越し以前の二人だけの取り決め。
『不可侵条約』だった。
イーブンとはとてもとても思えないアリスに優遇された条件を言い渡され、逆にブラッドからの掲示は唯一つ


『パロマには手を出すな。』


だった。


どんなに泣き付かれようが、助けを求められようが、一切手を貸さない。
この世界であまり不自由をしていないアリスにとって、そんな契約はしなくても良かったのだが、黒々しい社会の怖さとブラッドの話術にも引っ掛かり、それにちょっとその当時に魅力的な条件も入っていたのもあって悩んだ末に頷いてしまったのがそもそもの始まりだ。
そしてたまに、こうして冷静に釘をさしてくる。
それまでの和やかなムード等一切お構い無しに、空気が一瞬にして重くなる。それはブラッドのパロマに対する執着度合いと比重が同じ様に思えてしまうのだった。
「全くパロマはどこにいても男運が無さ過ぎるのよね・・・。」
ゆっくりと紅茶を嗜む男に向かって小さく呟く。
恐らく聞こえているのだろうに、しれ〜っとしているのが気に食わない。
きっと、こんなやり取りでさえパロマにしたら親密に見えているのだろうから、尚の事苛立たしい。
さらにさらに、パロマが気にしているのを知っていて、面白いからとワザと煽る態度を取るこの男の心根がいただけない。
アリスはパロマを心底不憫に思った。
「なら、こうしない?パロマの飼い主権はそっくりそのまま熨し付きであんたにあげるわよ。そしたら私なんかでヤキモキする理由が無くなるでしょ?・・・そうね、これって良いアイデアかも。私、あのベッタベタ感はペーターだけでも手に余っていたの。そう思ったら肩が軽くなったみたい!ちょっと清々するかも〜!」
アリスはそう言って、大げさに伸びをした。そうくるとは思っていなかったブラッドは、珍しくアリスに目を奪われてしまった。






飼い主の・・・全権?






ブラッドの頭の斜め上方向に、モクモクと思考の雲が広がった。




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bkm


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