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嘘を吐く事が出来ないのか、パロマは極秘の家庭の事情でさえ道端で会った赤の他人にも打ち明けようとする。それを察して、アリスが先に会話を止めた。人の内情に興味は無い。なにより、過去に思い巡らせてその先を話そうとするパロマの表情が、苦しそうに歪んでとても辛そうなのが気になった。
「嫌な事は思い出さなくて良いし、聞こうとも思わない。そんなに怯えないで?怒ってゴメンなさいね。」
「・・・・・いえ・・・・私の方こそ・・・」
優しく言葉を掛けてくれたアリスに、パロマが困った顔になった。優しさにどう返答して良いか分からない、そういった表情だった。
アリスはニッコリ笑って、パロマの衣服についた砂汚れをパンパンと払う。
「家に帰れないっとなると〜、だったら、私の家に来る?」
「え・・・・っ」
軽く言われた言葉が、パロマにはすぐに頭に入って来ない。
「だって、学園も危ない家にも帰りたくないってなったら、あんた行き場所ないじゃない。大丈夫よ。私が話せば少しの間だったら家に置いてあげられると思う。」
「いいいいいいいいえいえいえいえいえ!!!!そこまでご面倒はお掛け出来ません!私なんか匿っちゃったら、それこそ悪い噂が飛び火しちゃいます!駄目ですそれは駄目!!」
「それなら、どうするのよ〜。」
呆れ顔のアリス。もう策は尽きてしまった。それなのに、パロマはとても晴れやかな表情に変わった。アリスから掛けられた優しさが全身に行き渡って泣きたいほど嬉しかった。
「大丈夫です。私はこのまま学園に戻ります。これでも私って優等生なんですよ?もっともっと学びたい。音楽を、歌を、捨てられないんです。」
パロマは澄みきった声でそう答えた。少し前までグズグズと縮こまっていたのが嘘の様に、背筋がしゃんと伸びている。
「でも・・・」
「私って逃げ足だけは昔から自信がありますし、しかも私しか知らない秘密の隠れ場所があるんです。今日は運悪く捕まってしまいましたが、もう絶対に捕まりません。」
小さくガッツポーズを作るパロマに、アリスは苦笑した。そうは言っても、やはり『絶対』等という確証は存在しないのではないのだろうか。それでもパロマが学園に戻ると自分でハッキリと決めたのならば―――
「なら、もっとしっかりしなさいよ?!逃げるのも良いけど、嫌なら嫌ってハッキリ言いなさい!オドオドしていたら付け上がられるだけなのよ?目の前に逃げ道が無くっても、何処かにあると思って探すの!良い分かった??ーーー私が言いたい事、分かったの?!」
いつも誰かに追われていているのに、その理由を理解していない。
ちょっと優しくされたら、すぐ絆される。
結局は温室育ちなのだ。初めて飛び出した外の世界の厳しさを分かっていない。
アリスはこの世間知らずな娘を放っておけなくなった。いつもにも増して感情的にガミガミとお説教する。
キョトンとしたパロマはまるで初めて怒られた子供の顔をして、その後澄んだ微笑みを作った。
「はい。貴方の言いたい事、ちゃんと分かります。―――アリスさん。」




それから二人は友達となった。





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bkm


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