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その一言だけで、ブラッドの脳内でいくつもの推測が生まれる。ちょっとした会話、仕草に意外な真実が隠されているものだ。そしてブラッドは、誰もがスル―してしまう様な些細な事でも、確実に見抜く鋭い洞察力を持っている、食えない人物でもある。
アリスの滞在地であるハートの城の女支配者ビバルディは、ブラッドに負けず劣らずの紅茶中毒だ。そして彼女のティータイムの時は、可愛がっているアリスを共にする筈だろう。
アリスの言う事が正しいのなら、ハートの城では久しく茶会が開かれていないという事になる。
引っ越しはハートの城にも大きな変化をもたらしたのだろうか。ブラッドからすると、自分と同様に無類の紅茶好きのビバルディが、茶会の時間を割いてまで何かに追われる姿等想像もつかない。しかし、城に潜伏させている工作員からは、それと言った情報も流れてきてはいない。よほど厳重に伏せられた不祥事が起きたと言う事か。
ブラッドが考えを巡らせながら、何事も無い様に紅茶をゆっくりと含む。
不祥事が起きたとしても、それは飽く迄他人の領土の問題だ。こちらにしたら鬱陶しい存在が弱っているならそこを容赦なく叩くまで。ブラッドにとって身内以外はすべてが目触りな外敵だ。
「上等な茶が飲みたかったら、いつでも遊びに来るが良い。あいつも喜ぶ。何か悩みがあるのではないのか。」
表面上は優しく装いながら、情報収集は徹底して行う。そして、アリスも彼の態度が何故いきなり軟化したのか、分からない訳でもなかった。
「ウフフ。急に優しくなっても、話す事なんてなぁんにも無いわよ?」
アリスが軽く話を濁す。
ハートの城での滞在も大分長くなり、ビバルディに対してだって厚い恩情がある。城と敵対するブラッドには一切の情報も漏らしたくはない。ブラッドも特に興味もないのか、そもそもアリスからの情報等歯牙にもかけていないせいか「そうか。」と微笑を返しただけで、あえて追及もしない。今はただ格別な紅茶と、棘の生えた痛々しい会話を心底楽しんでいる風だった。
「私よりあの子の事。ちょっと、どうなっているの?来る時も双子にちょっかい掛けられていたわよ。今だって、ほら、ちょっと目を離した隙に、もうからかわれているじゃない。」
アリスがチラッとテーブルの端に目線を向けると、双子の意趣返しに合っているパロマがいた。エリオットで遊べなかった分、矛先をパロマに変えた様だ。これみよがしに大皿から取り分けたケーキをスプーンですくって、パロマの目の前で見せびらかす。ディーがニヤニヤしながら、それがどれだけ美味しいかを話して彼女の口元にスプーンを近付けていた。
アリスがそれを見てムッと表情を歪める。
パロマは元いた世界でも甘い物に目の無い少女だった。しかもこの屋敷で振舞われるデザート類はどこでも味わえない程の絶品揃い。給仕係にさせられて、あれはあまりに酷だろう。
しかし、アリスが仲裁に入る前に、甘い誘惑に負けてしまったパロマが、



パクッ


口元にまで持って来られたスプーンを、素早く咥えてしまった。


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bkm


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