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「そだ、ブラッド。お前にさぁ前々から言いてぇ事があったんだよ。お前の口調って、何かウンチクが多過ぎじゃね?何言ってんだか分かんねぇ時があんだよ。もっと短く説明できねぇの?」
遠くの方で、双子が「ブッ!」と吹き出す声が小さく聞こえた。
カップを持ち上げたままピタリと動きを止めたブラッドの隣で、アリスが顔を背けて肩を震わせている。彼女は確実に笑いをかみ殺していた。場の空気を一瞬で変えたが、エリオットに至ってはそんな事は何処吹く風で目の前の山盛りオレンジに挑み出した。
「・・・・それは悪かったな。生まれたばかりのお前には、理解しずらい単語が多過ぎたか。お前の脳内レベルまで引き下げるとなると・・・こちらは何処まで遡れば良いんだ?」
ブラッドのけんもほろろの言い草に、アリスの方がゲッと眉を顰める。何がブラッドの逆鱗に触れたのか訳も分からないエリオットは、はぁ?と一瞬呆ける。それを見ていたディーとダムがいらぬ所で横やりを入れた。
「これだからヒヨコウサギは馬鹿なんだ。一度卵に還って生まれ変われ。」
「何言われても傷つかないんじゃ、ある意味幸せな脳だよね。あ、今耳からポロって落っこちたのがそれなんじゃないの?」
双子の明らかな嫌味はすぐに理解出来たエリオット。彼は見るからにガルルルと凶暴化し、双子を噛みつかんばかりに鋭く睨む。慣れた給仕係数人がササッとテーブルの上の皿をワゴンに下げだした。
「エリオットさん!!このデザートもシェフが腕によりをかけた一品ですよっ。希少なレッドキャロットをふんだんに使った特製ムース!特別にエリオットさんだけのご用意なんですって!!」
手慣れたものでパロマもつかさずフォローに入る。お茶の時間はシフォンケーキを分けてもらった恩があるので、パロマはいつでもエリオットの味方だ。パロマが差し出してきた薄いガラスの丸皿には、中央に熟したトマト色に近い丸く模ったムースが。フンワリとしたレモン色のメレンゲと共に飾られ、ちょこんと澄まして乗っている。それだけでエリオットの態度がコロッと変わった。怒りっぽい彼だが、気持ちの切り替えが早いのは彼の長所だ。
しかし、もっと弄ってやりたかった双子にしたら、パロマがエリオットに加担するのはハッキリ言って面白くない。二人は露骨に舌打ちをした。
「ホントに・・・ここは何時でも一触即発の、ハラハラドキドキの領土よねぇ。」
アリスが気抜けした様にそう告げる。
「何だ、刺激が欲しいのか?それならここを滞在地としたら良い。今すぐでもこちらは大歓迎だ。余所者二人を囲う事等造作も無い。」
ブラッドがアリスに向けてニヤリと笑う。それをアリスが心底嫌そうに顔を顰め付けた。
「え・ん・りょ・しておきますぅ。あんたの玩具になるのだけは御免被りたいわ。心にも思ってないくせに、良く平然と言えるわね。」
「いや?本気で誘っているのに、心外だな。あいつの側はそんなに居心地が悪いのか?」
そう言って、ブラッドは顎でしゃくって誰の事を示したのかアリスに気付かせる。もちろんパロマの事を言っているのは、アリスは見ないでも分かった。
「そうは言っていないでしょ?ホント嫌味な人ね。・・・でも、こんなにゆっくりお茶したのなんて久し振り・・・。」
カップの湯気に包まれてアリスはホッと息を吐く。


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bkm


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