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ブラッドがアリスに目線も合わせず告げてきた。
アリスが驚いてブラッドを見る。人の飲み物にまでよく注意を向けていたものだ。確かにアリスは帽子屋屋敷でのお茶会では、紅茶をストレートで飲んでいた。しかし、それは他の飲み物が出ないという事もあるし、香り高い高級茶葉を使っているのが一目瞭然だったからであって、ミルクを入れるのも、レモンのスライスを入れるのも個人的には好きだ。
アリスは視線を戻しゆっくりとカップを傾けてタプタプとしたベージュ色の紅茶を一口啜った。たちまち口の中に広がる柔らかい香り。
「あの子にとって、私のイメージは『ほんのり甘くて温かいミルクティー』って事でしょ。別に良いじゃない、茶葉の香りが活きなくったって。優しさに飢えたあの子の為に、進んでオアシスになってあげるわよ。」
「それはそれは温情溢れる気配りだ。不味い物を不味いと言えないとは。お互いにとって何のプラスにもならん。真似する気等さらさら起きんな。」
「そうやってどんどん憎まれると良いわ。愛想尽かされて、元の世界に帰っちゃうかもよ?」
「フッ。どうやって帰ると言うのだ。」
ブラッドがそう言って失笑するので、アリスは何をそんな事でと訝しむ。
「どうやってって、小瓶の中身を・・・・あぁ〜あぁ〜、なる程ねぇ。ほんっとうに悪趣味よ、それ。」
ブラッドの頬笑みが消えないので、アリスは事の真相を察した。
今アリスの手元には、この世界に迷い込んた時初めて手にした小瓶がある。
何も入っていないカラの瓶だったそれは、触ってもいないのに今ではたっぷりの液体で満たされていた。しつこく付き纏うペーターに嫌気がさした時、さっとその小瓶を見せると、すぐにビクッと離れてくれる。
中の液体を呷れば、直ちに元の世界へ―――
それはアリスにとっても、またパロマにとってだって最後の切り札となるアイテムの筈なのだ。
それなのにブラッドが余裕の態度を崩さないとなると、
(中身、捨てているわね・・・・)
アリスが憎々しげにブラッドを睨みつける。
「おっ、皿の中身が全然減ってねぇじゃねぇか。喋ってねぇで食っちまえよ。」
二人の棘々しい会話に気付かず、部下への指示が終わったエリオットがアリスの向かいの席にドカッと腰を下ろした。テーブルにはアリスの持ってきたハートの城領土で最近有名なワッフルの他にも趣向を凝らしたデザートがふんだんにセッティングされていた。パロマが取り分け用の白いプレートを順々にセットしている。
「いつ見ても豪華よね〜。見ただけで胃もたれしそう。」
「さあ、やっつけちまおうぜっ!この新作のパイがイチ押しなんだよ。」
エリオットが嬉々として引き寄せたどぎついオレンジ色のパイを、ブラッドがゲンナリしながら見詰めた。


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bkm


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