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屋敷の中庭ではさっそく茶会の準備が整えられた。
テーブルには皺一つない真新しいクロスが引かれ、軟らかい風にフワフワと揺れている。中央に置かれたシャープな花瓶には大輪の薔薇が豪華に生けられて、華やかさを演出していた。椅子に優雅に腰かけたブラッドの左側には主賓のアリス、立って部下に指示しているエリオットの席が対面に用意してあり、その奥にはディーとダムがテーブルのデザートを物色している。
テーブルから少し離れた所にあるワゴンの側に立っているのは、紅茶をカップに注いているパロマだ。その顔は不貞腐れて頬がプクッと膨れている。
「私が招待したのに、どうしてお茶会・・・。しかも給仕係で、私の席の準備すら無いのね・・・・。」
パロマはブツブツと呟きながらも、与えられた仕事を無意識にもテキパキとこなしていく。元の世界では孤児ではあったが、貰われ先がそれなりに裕福であった為、家事全般をしたことがない程のお嬢様だった筈だが、慣れとは恐ろしい。
まずはブラッドの前にそっとカップを乗せたソーサーを置く。そこでハッと思った。思わずカップに伸ばされたブラッドの手を目で追ってしまう。
アリスが来てくれている時まで、まさかとは思ったが―――
「薄い。香りまで濁っていて最悪だ。」
やっぱりダメだしが来た。
パロマは鈍よりした空気を背後に背負ってすごすごとワゴンまで戻り、馴染みのエキスパートさんにバトンタッチする。その姿をアリスは無言で観察していたが、平然と淹れ直させた紅茶を堪能する隣の男に向かって、ボソッと呟いた。
「パロマが泣きそうになってる。どう言う事?可愛がってくれるんじゃなかったの?これじゃあ苛めているんだかわかんないじゃない。」
「良く分かったな。可愛がりながらも厳しく躾ける、言うのは簡単だが、それが中々難しい。」
ニヤリと笑ったブラッドは、アリスの詰問をいとも簡単に受け流す。答えている様で、はぐらかされている返答に、「駄目だこりゃ」とアリスは呆れかえって、自分のカップに口を付ける。アリスにはパロマがチラチラ気にしているのが分かった。
「あら、ロイヤルミルクティーにしてくれたの?美味しいわ。ありがとうねパロマ。」
アリスがそう言うと嬉しいのを隠しきれないのか、モジモジしながら給支に戻るパロマ。
「私の記憶が間違いではなければ、お前は確か濃い目のストレートを偏愛していなかったか。」


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bkm


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