08
「貴方達はどうしてこうも毎回毎回―――今度はどうしたんですか?!」
ガランと音がしたと思ったら、双子が急に頭や頬を押さえて呻き出した。パロマの口が急変した二人に戸惑い、出掛かっていた文句を忘れてしまった。
「くそっ!まだハート城での事件の古傷が疼くんだ。」
「いてて、たまにこうしてズキズキと痛み出すんだよね。」
まだこの領土が移動する前、世界の中心にハートの城郭が威圧的にその存在を主張していた頃、パロマが引き起こした大騒動のせいで、計らずも多くの役持ち達が一ヶ所に集結してしまい、あわや領土を跨いだ戦争勃発の危機という所まで発展してしまった事故があった。
激しく銃弾が飛び交い、火花を散らして剣が混じり合い、その中でエースと対峙したディーとダムは無惨な傷を負ってしまったのだ。
―――しかし、それは引っ越し以前に起きた大分前の話。
当時は頭から血を流していたダムも殴られて頬が酷く腫れていたディーも、時間の経過と共にすっかり良くなって、今に至っては小さな傷跡さえも無い。しかし、彼らが怪我を負った事に酷く責任を感じているパロマは、二人が少しでも痛がる素振を見せると、何時でも何処でも居ても立ってもいられなくなってしまうのだった。
「やだっ、ど、どうしよう」
立場が悪くなると奥の手と言わんばかりに痛がる素振をする双子達。二人の演技に騙されっぱなしのパロマは自分の左側の足と手の方がジンジンと真っ赤に腫れ上がって痛そうなのに、自分の事はそっちのけで偽りの怪我を痛がる二人に対して過剰に反応する。
「あんなに深い傷だったんだもの。まだ仕事に就くには早かったんじゃないですか。」
二人の傷を思い出したのか、パロマがブルッと小さく震えた。部屋を取り囲んでいた歴史を感じる由緒正しい展示物は見事にすべて破壊され、血の生々しい匂いが充満し、目が痛くて開けられない程の銃の硝煙で曇った戦場。あれはパロマにとって酷い悪夢みたいな出来事だった。
パロマは心底不安そうに、まずはダムの前髪をそおっと掻き上げた。パロマより頭一つ分低い彼を覗きこむと、至近距離に彼女の大きな瞳が迫ってきて、ダムはらしくもなく頬を赤く染める。カチンと固まったダムのオデコを、パロマは傷の具合を見ようとそっと撫でまわす。彼女にしたら、年下の男の子の具合を見る程度の気持ちだが、ダムにしたら意識した女に行き成り触られ、一気に体か火照り出した。
パロマの無自覚な男を煽る仕草に、思わずダムが震えてしまう。それを痛みから来るものだと勘違いしたパロマは表情を歪めた。
「傷は見えませんが、内出血が残っているのかもしれません。後で何か症状が出たらいけませんし、頭の怪我はしっかり治さないと。いつも無茶ばかりするんだから・・・。」
名残惜しそうに、前髪をゆっくり整えてあげたら、ダムは彫刻か何かに変わったみたく、ガチガチに固まったままだった。そんなに痛かったのかと、さらに深刻な顔をして今度はくるっとディーに向き直る。するとビクッとディーが一歩下がった。
「ちょっと逃げないで!しっかり見せて下さい。あの時は二人が沢山血を流して、本当に怖かったんですからね!」
「お、おいっ!もう良いって!!―――ほら、今度は本当に誰かやってきたよ!!」
真っ赤になった逃げ腰のディーが森を指差すと、そこにはまだ誰の姿も見えはしなかった。実は焦ったディーの口から出まかせだったのだが、パロマは目を凝らして森の方を凝視する。すると遥か遠くに、ゴマ粒程の黒い点がポツッとあるのをパロマは見分けた。
「あっ!!」
未だ硬直したままの二人を取り残して、パロマは森に向かって猛然と走りだす。本領を発揮したパロマの速い事速い事、ディーとダムから見たパロマの大きさが、米粒程になった所で、「苦しいぃぃぃ」と誰かの悲痛の叫びが木霊した。


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