05
パロマは闇雲に両足を動かした。
そうでもしないと足の無いおぞましい何かに追いつかれて襲われる、という勝手な妄想に憑りつかれていた。怖すぎて後ろを振り返える余裕も無い。目を瞑り耳を両手で押さえて屋敷の中を猛突進していたら、誰かの背中にその勢いのままタックルしてしまった。
「いっってぇ!!テメッ何しやがる!!」
廊下で立ち話をしていたボス2名、その内良かったのか悪かったのか、エリオットの背中に勢い良くぶつかった。殺気も無くまさか屋敷の中で背後から襲撃されるとは思わなかったせいか、エリオットは腰に手を当てダイレクトにヒットしてしまった痛みに耐えている。しかし、鋼鉄にぶつかったが如く反動で吹っ飛ばされたパロマはお尻からドスンと転んで、あまりの痛さに発する言葉を失っていた。ブラッドも珍しく目を見開いて驚いている。
「てめぇ、俺様に歯向かうとは良い度胸じゃねぇか。―――てか、お前大丈夫か?」
エリオットはギロっと睨んでみたが、座り込んだまま痛みに震えるパロマを逆に心配してしまった。
「今の時間帯は公演に向けての練習をしている筈だろう。こんな所で走っている場合か。」
ブラッドに指摘されてパロマは痛みが治まり、今しがた見た出来事をハッと思いだした。サッと後ろを振り返り、慌てて二人の背後に回り込む。
「でででで出たんです!!!森で見てはいけない物を見てしまいました!」
パロマがガチガチと歯を鳴らしながら廊下の先の庭の方角を指差した。それを見た二人は「はぁ?」と表情を歪める。パロマの指さした方向は人影も無くシンと静まりかえっていた。何の変わり映えも無い風景だ。
しかし、パロマには確信があった。
何処からともなく聞こえてくる声、暗がりの中青ざめた表情、手に持った得体のしれない物体、そうときたらもう彼の正体は一つしかない。
ブラッドが「どれだ?」と訳も分からない問い掛けをしてきたので、パロマはエリオットの背中に隠れて「きゃああ!!いっっいっぱいいるんですか?!」とへっぴり腰でエリオットの服にへばり付いた。
パロマの異常な怖がりっぷりを眺めてエリオットが「あぁ!」と言ってニヤニヤ笑い出した。
「へぇ〜、お前ってそういうの苦手なわけ?何でも信じてんのな。いったい歳はいくつだ。」
「本当にいたんですから!1人の暗〜い男の子が『誰かの心臓〜』って言って何か・・・何かを握っていました。何かは言えません。察して下さい。あの子は恐らく無念の内に殺された幽霊とか怨念とかです。」
話している最中にまた思い出してしまって、パロマは自分の体を抱きしめてブルブルと震える。
「心臓・・・?そんなものが森にあるものか。性質が似ている時を刻む物として、比喩的にそう言っているだけだろう。この世界には私の知る所で、心臓は二つしかないからな。―――警備にも引っ掛からないとすると、そいつはうちの『掃除屋』だろう。」
ブラッドが気だるそうにそう説明してくれた。
しかし、サラッと言われた言葉は、パロマの頭にはサラッと入って来ない。意味不明な箇所が多過ぎる。


prev next

281(348)

bkm


top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -