02
「そんな理不尽なっ!!!」
何言ってんの?はパロマの台詞だ。今までの努力を水の泡にしてスタートラインにまで戻すと言うのか。
ソプラノ歌手と言っても得手不得手がある。
声の質、独特の癖は云わば個性。
初めて自分の歌唱力を認めてくれた講師の教えに沿ってここまで上達したのに。
パロマの反抗的な態度に若干イラっとしながら、彼はパロマに向き直った。
「なぁに?あんた私に口答えするの。」
そう冷たく言われて、前で組んだ両手をさらにギュッと握りしめる。
「何度も言っているんだけどね?いくらスポンサーからの依頼とはいえ、こっちとしては実力も分からない小娘に、大事な舞台の成果を左右されたくないの。」
ピアノの伴奏も止まって、彼の声以外はしんと静まり返っていた。
「だから建前で教えてあげてるけど、間違えないで。あんたは一流歌手の代役。」
パロマの表情が強張った。嫌味な位何度も言われている台詞。しかも、二人っきりの時を態々狙って念押ししてくる。
「ちょっとは声に自信があるみたいだけど?私に言わせりゃ、村興しの喉自慢大会参加賞程度よ。アリアなんて無理無理。大体体力ないしさぁ〜」
クリスティーヌの棘のある評価はまだまだ続く。そこまで高飛車でいたつもりは無いが、パロマの学歴に対するプライドは踏まれて伸されて、最早ぺラッぺラだ。
「だから、あんまり反抗的な態度ばっかだと、今回の舞台は隅っこの方の草かキノコ役にしてやるからね。」
クリスティーヌは鼻息荒くそう告げた。
「くっっっ草かキノコ?!」
動揺を隠しきれず抱えていた台本をバサッと落としてしまう。
パロマだって舞台に立てるのならば、村人Aだって構わないとは思ってはいたが、草やキノコにまで降格してしまうのか。それでは歌う処か、ユラユラ揺れているのが関の山だ。
「いえっすみませんでした!ご指導を宜しくお願いします、ガストン先生!―――あ・・・。」
パロマは自分の失言に気づいたが、時既に遅し。フルフル震えた『クリスティーヌ』先生はとうとうタクトをバキッと真っ二つに折ってしまった。
「良い度胸じゃないの、あんた。罰として裏庭20周!それが終わったら足上げ200回、続いて腹筋背筋腕立て伏せ100回!この夜の時間帯内に終わらなかったら、次から基礎体力造りだ!分かったからさっさと行く!!」
「はっはいいいっっっ!!!」
野太い男の声で叫ばれて、パロマは恐れをなして扉の外へと走って逃げた。





――――鬼っっ!!





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bkm


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