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時間帯が変わり、パロマは仕事も終えて自分の部屋に帰ってきた。多くの同僚達が数人ずつで共同生活をしている中、パロマだけは1人部屋を与えられていた。ご丁寧に鍵付きである。しかし、通常の鍵穴の他に、パロマには知らされていない暗証番号がインプットされたタッチパネル式のキーロックが設置されている理由が未だに解明出来ない。
部屋にはいると、パロマは真っ先に机に向かった。
仕事中も何度かこっそり読んでしまったが、今度はゆっくりと表紙を捲る。パロマは時を忘れる程、貪る様に台本を読み耽った。メロディに乗せて台詞を読み上げる。アリアのパートはことさら念入りに口ずさんだ。
最後まで読み切りパタンと台本を閉じると、今度は1人でパァッと頬を薔薇色に染めた。
「私が・・・私が公の舞台に立てるだなんてっ」
「きゃああっっ」と一気に心拍数が上昇してきた。
「アヴェルラ?!あのっアヴェルラよ?!?!ステージに上がれるのなら、村人Aでも良かったのに、本物のプロのソリストになれるだなんて・・・!!」
パロマはベッドにうっ潰して、自分を掻き抱き嬉しさに身悶えた。この酷く奇っ怪な行動は、誰にもバレない1人部屋で正解だっただろう。
(あんなに怒っていたのに、やっぱりボスは優しかった。こんな嬉しいプレゼント初めて。)
さっきの遣り取りをふと思い出して、無意識に自分の唇を指先で辿る。彼の指が、触れた場所。
途端に胸がドクンと高鳴った。
(ボスは・・・どういうつもりだったんだろう。)
急に胸が苦しくなった。彼の行動はいつも突拍子も無く、パロマの理解力の遥か上をいっていた。
(いつもの、悪戯・・・?でも、)
逃げなかった、自分がいた。
そんなに強く拘束されていた訳ではない。強く抵抗したら逃げられたのだ。
なのに、身体は気持ちに反して少しも動かなかった。
それとももしかしたら、気持ちに従っていたのかもしれない・・・・。
パロマは高まる胸の上で手をギュッと握りしめた。まるで自分の気持ちを推し量る様に。


しばらくぼぅっとしていたパロマだが、ハッと我に返った。
机の上の台本が視界に飛び込んでくる。
こうしちゃいられないっと体制を直し、引き出しから紙とペンを取り出した。


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bkm


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