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「これってオペラ戯曲『小夜啼鳥の旋律』の台本、ですか?・・・わぁ。譜面なんて久し振り。ちょっとアレンジが加えてありますね。これから公演される舞台の物でしょうか。」
見慣れた台本をペラペラと捲ってみる。まだ誰の印も記されていないそれは持ち主がいないのか、真新しい紙の匂いがした。
「オールドソーンズの土地が手に入ったら、大々的な改造に取り掛かかる。今は廃れた地帯だが、まずはそこを拠点に大動脈を造り、最終的には商業の拠点に仕立て上げる。その第一歩として、中央に位置する廃屋を劇場に改築し、そこで帽子屋の名を翳してオペラを公演する予定だ。そのリブレットは劇場のこけら落としの物。」
パロマは興味深げに台本のページを捲る。それは3部構成からなっているオペラでは定番な悲劇で、舞台を勉強中の彼女には馴染みのある物語だった。
「お前にはその登場人物、『アヴェルラ』を演じてもらう。」
「ア・・・・ッッ」


―――アヴェルラ!?!?!?!


パロマの手からスルリと分厚い台本が滑り、床に落ちてバサッと広がった。
「囚われの歌姫アヴェルラって言ったら、この物語のメインキャストじゃありませんかっ!!一幕には独唱、二幕で二重唱、最終幕では最後の見せ場でもある詠唱を歌い上げる、この楽曲の顔的存在ですよ?!それを・・・・・・私がっ?!?!」
「元いた世界で何度もアリアを演じた実績あるとほざいていたのは、お前の誇張だったのか?」
椅子に座っているブラッドと視線がぶつかって、パロマの喉がゴクッと鳴る。
「そんな事は、ありません。」
パロマは静かに答えた。
確かに、通っていた学園で開催される公演に度々アリアにも抜擢された。後ろ盾が無かった分、レッスンは人一倍多くこなした。演技力も歌唱力も、胸を張って自慢出来る。
(でも・・・っ)
それだって声楽部内の生徒によるオペラの真似事みたいな物だ。
単なるアマチュアで構成された学園の慈善事業と、ブラッドの言っているそれとは遥かに違う。
「畑違いのヴォーカルに駆り出されるよりマシだろう。帽子屋屋敷が全面バックアップするとなれば一流のオーケストラ、選りすぐりの役者を配置する。」
明らかにプロ。
客を惹き付け、チケット代金と己の懐とを天秤にかけさせる。お遊びの無い、紛う事なき真剣勝負だ。
(ボスは、私にチャンスをくれるの?)
アリアと言ったらそのオペラの出来を左右するハイライト。そこでコケたら、すべてが台無しになってしまう、言うなれば最も危険なパート。
「本家本元のオペラ歌手達に引けを取らずそれさえも逆手に取って、視線を独り占めしてすべてを遣り遂げる自信があるなら―――」

パロマの瞳が、みるみる希望に輝き出した。
「やってみるか?」




「やります!!!!」




パロマが元気よく答えて、台本をすぐさま拾った。


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