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抹消リストと照らし合わせて、ブラッドの視線が鋭くなった。
「今の内に根絶やしにしておこうぜ。あいつ等のヘラヘラしたゴマすり顔は、毎度毎度反吐が出る。」
嫌味に腰が低い悪人達を思い出したせいか、エリオットの表情が苦々しく歪む。
「反旗を翻したというのなら大義名分が立つが、フォースウルフは表面上飽くまでうちに服従している。ブラックリストにも組織の名を背負う者の名が誰一人として上がっていない。見上げ忠誠心だが、それが逆に胡散臭いがな。死滅させるのは容易いが、今の混沌とした現状では更なる混乱を招く恐れがある。」
世界が変わってからまだ幾ばくも無い。地盤が落ち着くまではまだ時間が掛る。まず何を優先にすべきかブラッドは思案した。
「やはりオールドソーンズの土地を押さえるのが先決だな。地図上を推し量るだけでもこの恵まれた立地条件、交易通商の経路として申し分無い。今はどんなに治安が悪かろうとも、いつかは戦時の防壁の要として頭角を現す。幸いにもこの領土と地続きだ。他の領主どもが煩く嗅ぎ回る前に手を打っておいて損はない。それでフォースウルフの連中が立ち向かってきたのなら好都合だ。その時はあのにやけ面を恐怖に歪ませてやろうではないか。」
「確かに。ここんとこのいざこざは、叩いても叩いても切りがねぇからな。面倒くせぇにも程があるぜ。」
表立って襲撃を指揮するのはエリオットだ。クローバーの国に引っ越してきてから、彼の屋敷にいる頻度が激減した。それだけ厄介事に駆り出されているという事になる。
「そうだな・・・、内部の裏情報をバラまいて、勝手に潰しあう様に仕向けるか。あそこはただでさえ部下が上司になり変わっている。殺された3幹部も可愛がっていた部下に、無様にも寝首を掻かれたらしいじゃないか。少量の毒を散布するだけで、すぐにジワジワと染み渡るだろう。」
ブラッドの真っ黒い打診に、エリオットが「なるほどお!」と顎に手を当てて頷いている。
「もしくは次に潰す予定の組織は、ツインクロ―を使って壊滅の一歩手前で引き上げ、フォースウルフに遺恨を残す様に仕掛けても良いな。それで勝手に潰しあってもらえれば、こちらとしては余計な仕事が一つ減る―――」
どんどん、どんどん、二人の話の方向性にダークさが増してくる。
それに、全く付いていけていない人物が一人。



―――こっっっ怖すぎる!!!



姿を現すタイミングを完全に見失ってしまったパロマだった。
ワゴンの下で、二人の悪しき会話の邪魔をしない為にも、息を殺して必死に気配を消していた。
(理解出来ないっ。じ、人身売買って言った?!ツインクロ―って一体何?!?!)
マフィアの黒々しさ、この屋敷の怖さを改めて思い知ったパロマだった。
「―――分かった。んじゃまずは土地からだな。それからこの一帯を・・・・・ところで、あいつはあそこで何をやってんだ?」
何気なくエリオットが指を指した先には、支給用のワゴンが一つ。下に隠れていたパロマはガンッとワゴンに頭をぶつけて、上に乗った皿がガシャガシャと揺れた。気配を消していたなんて無駄な配慮だった。最初から、パロマの存在がバレていた。
「フッ、気にするな。逃げたは良いが腰が抜けたんだろう。―――おい、もう出て来い。」
ブラッドは頬杖を突いてニヤニヤしながら、ゴソゴソと這い蹲って姿を現したパロマに向かって手招いた。
「ほら、お前に仕事をくれてやる。」
ブラッドがそう告げると、分厚い書類をバサッとパロマの前に投げる。
「わ、私にですか・・・?聞こえてきたお話の中で、私がお手伝い出来そうなお仕事は一つもなさそうですが・・・。」
パロマは怖々書類を拾い上げた。
今の話の流れで任される仕事とは一体・・・。
目下彼女の仕事は掃除洗濯食器磨きと雑用まみれで、組織本来の業務に何一つ貢献してはいない。
しかしそのちょっとした伝記程の厚みを帯びた紙束の表紙を見て、パロマは驚きの表情をした。



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bkm


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