13
窓は閉めきっていて風が吹く筈がないのに、何故か宙を舞う数枚の紙ぺら。
椅子に座ったブラッドは1人、机には向かってはいないが手にはペンを握っている。茶の準備が整っているのに片手間で仕事もしていたのか、とエリオットはいぶかしみながら部屋に入ってくる。そんな彼にブラッドは凍る冷たい目で睨んだ。
「―――それは火急の用件なんだろうな。そうでなかったらお前を火達磨にしてやる。」
「お前まだ怒ってんのかよ。執念深くね?」
ブラッドがあからさまに不機嫌なのは、秘密裏にデスメタルのゲリラライブを敢行した事で未だ臍を曲げているのだ、とエリオットは勘違いをした。もちろんそんな事で彼が気分を害したのではない。
時を少しだけ遡らせると・・・



パロマがブラッドの名前を口にしようとした正にその時、廊下から荒い靴音が聞こえだした。
ハッとしたパロマは一歩間違えれば騒音の様な靴音でエリオットだと分かったが、同じくそれを察したであろうブラッドが拘束から解放してくれない。逆にどういう訳かさらに深く抱え込まれた。
眉を潜めて間近の上司の顔を見上げたら、
パロマの視線に気がついて、意地悪そうに口角が吊り上がった。
(ボッボス?!何考えているの?!?!エリオットさんは絶対この部屋に向かっているのにっ・・・まっまさか!!!)


ーーーこの状態を、見せるつもりなの?!


そう思った後のパロマの行動は早かった。
ドアノブがガチャッとゆっくり回りだし、ブラッドの視線が自分から前方へと反れた一瞬の隙をついて、ありったけの力を放出しブラッドの拘束から逃れた。
ドアノブが完全に回りきり一気に扉が開かれる。
しかしそれに気を捕らわれることなく、パロマはブラッドの膝の上から飛び降りるとカモフラージュに机に転がっていたペンを自分の代わりに握らせる。
エリオットが下を向きながら部屋に現れた時には、お茶を支給する為のワゴンの下まで突っ走り、その勢いのままスライディングして身を隠した。
そして、その風圧に負けて数枚の書類が机の上から舞い上がった。
エリオットが顔を上げた際には、先程の配置に仕上がっていたという訳だ。
その間、掛かった時間はほんの数秒。
元々足の速さには自信があったパロマだが、ハートの国で立て続けに起こった生死を掛けた追いかけっこのお陰で、素早さのレベルが格段に上がっていた。
今やワゴンの下で「た、助かったぁ〜・・・」とヘナヘナと力を無くして、その場から動けなくなってしまった。
「ブラッドが急げっつった仕事だろ、これは。」
何も知らないエリオットはズカズカと部屋を横断し、パロマが隠れているワゴンを軽く通り過ぎる。そして分厚い書類の束をブラッドの机にドサッと置いた。
「まぁ、確かに急いで正解だったぜ。行ってみて分かったが、オールドソーンズの界隈は今じゃとんでもねぇ無法地帯だ。どこに拠点を置くかでごろつき共がウヨウヨ蔓延っていやがった。押さえ込むのに少々手擦っちまったが、概ね希望通りには確保出来たと思うぜ。」
「お前ここを何処だと思っている。概ねという言葉は存在しない。全か無か、それだけだ。立ちはだかる障害は例外なく叩きつぶせ。」
仕事の顔になったブラッドが、エリオットの持ってきた書類をパラパラと捲る。
「帽子屋の名前を翳して何処が堕ちない。―――あぁ、また『4番目の狼』の組織か。」
数枚目にある、パロマだったら目を背けたくなる様な残虐な写真が添付された書類でブラッドの手が止まった。
エリオットがさらに状況説明の為数枚先まで捲った。
「認めたくはねぇが、あの土地で一番大きく幅を利かせてんのはあいつだろうな。」
「組の幹部3人を仕留めて天辺まで登り詰めた男だったか?最近になっていよいよ頭角を現してきたか。人身売買にも手を出して引っ越し以前はこそこそと裏ルートで端金を稼いでいたらしいが、地殻変動後の奴らはやたらと目立つ行動が多い。」




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